昭島市で捕獲された「謎の怪物」正体を探る 夜な夜な現れたのは巨大ネズミ? 明治時代に残る“伝説”

穂積 昭雪 穂積 昭雪
画像はイメージです(VectorShots/stock.adobe.com)
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明治・大正・昭和時代の新聞記事には令和の現在では考えられない奇妙な事件が多数記録されている。

今回ご紹介したいのは、今から110年以上も前、1907年(明治40年)3月28日の東京日日新聞に掲載された「謎の怪物」の捕獲記事である。以下に要約を記載する。

■古寺の鼠狩り(1貫300匁の鼠を生け捕る)
東京府北多摩郡拝島村の普明寺という古寺にて、夜な夜な「怪物」が現れるという噂が立った。

当時、普明寺には村役場の一部が移転されており、その前後から寺の本堂に怪物が現れ、夜になるとお供え物が無くなる被害が相次いでいた。その怪物の体毛は茶褐色で針のように鋭く、目はギラギラと輝いていた。村の若い連中はさっそく「怪物狩り」に出発、生け捕りにする事に成功した。

捕まえた怪物は大ウサギほどの大きさで1貫300匁の体重(約4800g)で尾は人間の親指ほどの大きさで鼻先と下腹には銀針のような白い毛が生えており、牙と爪は見るからに恐ろしき有様であった。この怪物をひと目見ようと近隣の村からも見物人が集まったという。

◇   ◇   ◇

本記事は一般的に知られた資料ではなく、東京日日新聞以外には『明治猟奇史』という1933年(昭和8年)に発行された書籍に一度紹介(後に『日本猟奇史』として復刻されている)されたきりである。「本当に怪物はいたのか…」筆者はさっそく怪物の調査を開始した。

まず、怪物が棲み付いていた「東京府北多摩郡拝島村の普明寺」だが、このお寺は2023年現在も東京都昭島市拝島町内にある。明治時代の出来事ではあるが、隣村から見物人が集まるほどに注目を集めた事件ならば、当時に撮影された写真やスケッチなどが残っているのでは?と期待したのだ。

筆者は現在の普明寺のご住職にお話しを伺った。だが「そのような怪物のお話は聞いた事がない」という。実は現在の普明寺は1917年(大正6年)に発生した拝島村を襲った大火によって全焼。本堂は昭和時代に建て直されたもので、それ以前の資料は残っていないという。

続いては住職のご紹介で、昭島市内の歴史に詳しいという菓子店「元木屋」を訪ねた。
店主の瀧瀬秀夫氏は、普明寺の怪物の事件は初耳であったが、明治時代の拝島村下宿の鳥観図などを見せて頂いた。

するとある事実が浮かび上がってきた。昭島市は長年に渡り特定外来生物である「ハクビシン」の被害に悩まされ続けているという。大きさや鋭い爪などの特徴から、1907年に捕獲された普明寺の怪物の正体は「既に来日していたハクビシンが正体ではないか」と瀧瀬氏は語る。

ハクビシンは明治末期頃から日本で目撃された外来種であるが、その移入経路はよくわかっていない。恐らく普明寺に現れた怪物の正体は、昭島市内で目撃されたごく初期のハクビシンの記録という可能性はありそうだ。

怪物の正体は、残念ながら妖怪やUMA(未確認生物)の類では無さそうだが、貴重な外来生物のデータと思われる。

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