ロシアのウクライナ侵攻に見舞われた市民の姿を伝えたドキュメンタリー映画「マリウポリ 7日間の記録」が15日、公開初日を迎えた。共同プロデューサーを務めたナディア・トリンチェフ氏(53)が都内のシアター・イメージフォーラムで舞台あいさつを行い、撮影中に45歳で殺害されたマンタス・クヴェダラヴィチウス監督、監督の婚約者だったハンナ・ビロブロワ助監督に触れ、映画が完成に至るまでを語った。
昨年2月24日のウクライナ侵攻開始後、撮影班はウクライナ入りし、3月19日にロシア軍に包囲されたドンバス地方マリウポリに到着。路上の遺体など凄惨な現場ではなく、教会に避難した住民たちがおしゃべりを楽しみ、料理をし、たばこを吹かす日常を撮影した。しかし3月30日、監督は親ロシア派勢力に拘束され殺害。ハンナ助監督らにより撮影済み素材が確保され、遺体とともに帰国。急ピッチで完成した作品は、同年5月のカンヌ映画祭で特別上映され、ドキュメンタリー審査員特別賞を受賞した。
フランス在住のナディア氏はこの日の朝に来日。一般上映は日本が世界で最も早く「劇場がお客さんで埋まっているのがとてもうれしい」と感慨深げに話した。「マリウポリに監督が向かうというのを3月18日に聞き、ハンナさんとの写真も送られてきました。私たちに話したら反対されると思って、事前に伝えなかったと思います。気をつけて、としか言えませんでした。監督が殺害された、というのが、次の連絡でした」と語った。
映画完成の制作期間は約1カ月。監督の過去作品に携わったスタッフが集結した。音入れに関しては3チームに分け、24時間体制で5日間を要した。「なるべく彼のビジョンに忠実に。この題材であってもユーモアがあり、明るさを伝えるところは、監督の特徴だと思います。つまり、人間同士がつながる点に光を当てて、非常に時間を費やしています。報道映像とは違うリズムが刻まれているのは、彼がそこの人たちと一緒にいて、傍観者ではない立場でいるので、観客である私達もあたかもそこにいるように感じるからでしょう」と話した。
住民たちの穏やかな雰囲気、その背後に映る廃墟、激しい爆撃音のコントラストが特徴的。ナディア氏は「スープをつくるシーンでは、街が破壊されている中でもお互いに気遣い合っています。人間の恐ろしい行為を避けては通れないけれど、スープを作るのなら少しでも美味しくつくりたい。そういったシーンが監督のビジョンなのではないか、と私は感じます」と推し量った。「この映画を見た印象を多くの方に伝えていただいて、その経験を共有して、お互いにどう気遣えるのか。そこから平和への糸口が見えてくるのではないでしょうか」と、呼びかけた。