スマートフォン向けゲームアプリを原案とした実写映画「映画刀剣乱舞-黎明-」が31日に東宝系で全国公開される。前作でのミステリアスな「審神者(さにわ)」という役でゲームファンから好評を博した俳優・堀内正美は神職役として再登場する。22日に73歳の誕生日を迎えた堀内が、よろず~ニュースの取材に対し、刀剣乱舞からウルトラシリーズにまでさかのぼり、若い世代が注視する作品に出演することの意義などを語った。(文中敬称略)
新作で柄本明や津田寛治らベテラン勢の1人として脇を固める堀内は、京都にある神社の神職「倉橋」を演じる。前作「映画刀剣乱舞-継承-」(2019年)に登場した「審神者」はゲームの中でいえば、プレイヤーの役割を担う存在だった。御簾(みす)の中にいて、ほぼ顔も分からない状態で指示を出し、刀剣が戦士に姿を変えた「刀剣男士」を動かした。
「実写化で審神者役のキャスティングが難航した時、監督とプロデューサーから『堀内さんの生活感のなさ、知らない人は知らないところがいい』とオファーがあった。公開後、ゲーマーの人たちから『イメージを傷つけないでくれた』『また出て欲しい』という声をいただいた。僕は昨年公開の『シン・ウルトラマン』に内閣官房長官役で出ていたのですが、髪型を8・2分けくらいにしたら、ほとんど気づかれなくて(笑)。今回は神主のような役。さて、どうなるでしょうか」
原作がゲームということで観客層は若い世代が想定される。堀内はこれまで、さらに年少の子どもたちが見るウルトラシリーズにも出演してきた。東宝で黒澤明監督の助監督を務め、児童劇映画を確立した監督である父・堀内甲(まさる)から「子どもたちには『本物』を見せなきゃダメだ」と教えられてきたという。
「僕はウルトラシリーズの中、レギュラーで1年通してやったのは『ウルトラマン・ネクサス』(04-05年)で、あとは『ウルトラマン80』(1980年)から『-ティガ』(97年)、『-ダイナ』(98年)、『-ガイア』(99年)などでのゲスト出演でした。改めて見返すと、非常に内容が深い。大事なことが『種=シード』として子どもたちの中に入り、いつの日か芽が出て来る。(60年代の)『ウルトラQ』以来、初期のシリーズでもドラマの中に差別や人権問題を取り込んでいたりして、今思えば、よくスポンサーが通したなという作品も多くあります」
黎明期からウルトラシリーズを支えた実相寺昭雄監督とは深い絆があった。
「実相寺監督の作品ではATG映画『歌麿 夢と知りせば』(77年)が初めてで、共演した監督の奥様である原知佐子さんに『堀内君、あなた、うちの主人の趣味よ。キャラクター的にフランスぽくて、主人はそういうの好きだから、そのうち声がかかるわよ』と言われ、実際にその通りになった」
「帰ってきたウルトラマン」(71年)にもレギュラー出演した名優・岸田森(しん)にイメージを重ねられたこともあるが、堀内は「岸田さんは亡くなられて『神』になった。越えようがないです」と首を振る。岸田は82年に43歳の若さでこの世を去った。
「岸田さんが亡くなり、その空いた部分を僕で補った部分もあったと思います。実相寺さんは(90年代以降の)ウルトラシリーズでも必ず1本は撮っていたので僕も出演してきました」
実相寺監督が亡くなった06年の晩秋。神戸在住の堀内は、実相寺組の俳優・寺田農から容体悪化の一報を携帯電話で受けた三宮の街から東京に急行して病院で付き添い、最期を看取っている。
そんな堀内が登場してきた映像世界に対し、現役クリエイターたちは少年時代に魅了された。その体験がリスペクトとなって、新作への出演につながっている。
「僕の中では20代で出演したNHK少年ドラマシリーズ『七瀬ふたたび』(79年)という作品が非常に印象的だった。その作品を岩井俊二監督、小中和哉監督といった当時10代で(※いずれも63年生まれの現在60歳)、熱心に見ていた世代の監督が今も僕のことを覚えていて使ってくれている。刀剣乱舞の監督やプロデューサーも実相寺さんの鱗粉を吸ってしまった子どもたちで、長じて僕を呼んでくださり、大事にしてくれる。(若き日の出演作は)僕の財産です」
映画「シン・仮面ライダー」が公開中だが、テレビシリーズの中で、堀内は「仮面ライダードライブ」(14年)に出演。そうしたキャリアを踏まえた堀内のトークショーが「 『特撮怪優伝』VoL.01―ウルトラマン・仮面ライダーから刀剣乱舞まで―」と題して、大阪・十三の第七藝術劇場で4月9日に開催される。
「〝子供だまし〟という言葉があるけど、子どもはだませないです」。堀内は父から譲り受けた視線を持ち続け、孫世代のファンともつながっている。