バカになれ!アリvs猪木、ネッシー探索など仕掛けた興行師の半生を舞台化 猪木さんやドリフ精神も継承

北村 泰介 北村 泰介
伝説の興行師を描いた舞台の主演女優・睡蓮みどり(左)と作・演出の佐藤賢治氏=都内
伝説の興行師を描いた舞台の主演女優・睡蓮みどり(左)と作・演出の佐藤賢治氏=都内

 英・ネス湖での未確認生物「ネッシー」の探索、アントニオ猪木VSモハメド・アリ戦、〝ヒューマンジー〟オリバー君の来日…。1970年代に世間をあっと言わせた仰天企画を連発した「伝説の呼び屋」康芳夫氏(85)の半生を舞台化した劇団羊風舎旗揚げ公演「都市伝説・康芳夫~モハメド・アリに魅せられた国際暗黒プロデューサー」が3日から6日まで東京・新宿シアターブラッツで上演される。「康チルドレン」世代の主宰者と主演女優に話を聞いた。

 くしくも「国際ネッシー探検隊」の総隊長を務めた石原慎太郎氏(享年89)、アリ戦や幻のアミン大統領戦でタッグを組んだ猪木氏(享年79)と、縁のある著名人が亡くなった今年、康氏の生き様を描いた舞台が実現した。

 作・演出の佐藤賢治氏はアリVS猪木戦の翌年となる77年生まれ。漫画家・荒木飛呂彦氏の「変人偏屈列伝」で康氏を知り、「猪木とアリに絡んだ人」として興味を持った。15年前から仕事を通じて本人と接するようになり、自身も含めた「後追い世代」に向けて康氏をメインキャストにしたYouTube番組を配信中。昨年、康氏も出演した奇書「家畜人ヤプー」のイベントを開催後、舞台化を目指してきた。

 佐藤氏は「最近はテレビ番組や漫画でも取り上げられるなど注目されています。石原さんと猪木さんが亡くなった2022年に公演をするのは、複雑な気持ちもありますが、舞台で康さんの魅力を残していきたい」。康氏を演じる女優の睡蓮みどりは「今まで男性の役を演じたこともないし、不安やプレッシャーもありましたが、康さんは学生時代から存じあげていたので、挑んでみたいという気持ちもあってお引き受けしました」と振り返る。性別をも超越した存在である康氏ゆえの配役。佐藤氏は「康さんの不思議な魅力を男性がやって出るのかというと該当者はゼロだったので、女優さんでやってもらおうと最初から決めていた」と明かした。

 87年生まれの睡蓮にとって、ネッシー、アリVS猪木、オリバー君といった70年代における康氏の仕事は〝歴史上の出来事〟になる。それでも共感できる要因は何か。睡蓮は「少年の夢物語みたいなことを本気でやっちゃう人が実在していて、そのエネルギーや発想力がすごい。しかも一度のみならず、何度も仕掛けて、ずっと続けてきたことがすごいし、驚きがある」と魅力を口にする。

 役作りはどう意識しているのだろうか。睡蓮は「康さんが持っていたであろう少年の気持ち、『こういうことが実現したら面白い』という悪だくみも半分のキラキラした気持ちを一番大事にしたい。今の価値観と比べて、康さんがやったことが正しいか正しくないかを検証する舞台でもないし、康さんを称賛する舞台とも違う。昔、こんなことが事実としてあったという、そこをどう描けるか。康さんのモノマネをしたところで似るわけでもないし、とてもじゃないが及ばない。その存在感にどこまで近づけるか、康さんの持つ異次元性みたいなものを舞台の上でも表現できたら」と意欲を示す。

 佐藤氏は「やりたかったことは『昭和の面白いところの再構築』。キャストが歌っている後ろで場面転換するなど、地方の会場で公開放送していたドリフターズのようなことをやりたい。旗揚げした劇団名の『羊風舎』とは康さんの精神に通じるドン・キホーテに由来する。今の世の中が、もうちょっと開放的になればいいなと思って。仕事でもお会いしていた猪木さんが亡くなられたことは悲しいですが、猪木さんの『バカになれ』という、何かに没頭してものを作る精神をこの舞台からも感じて欲しい」という。

 本公演では〝野良犬〟と称された元キックボクサー・小林さとしが虎と戦う空手家役、西口プロレスのアントニオ小猪木が猪木さん役で出演するなど、多彩な配役にも注目。睡蓮は「いろんなジャンルからキャストが集まっているので、演劇としてだけでなく、ショーのステージを見るように楽しんでいただけたら。当時を知る人には懐かしさを、知らない世代には驚きや楽しさを伝えて、考えるきっかけや余韻が残るものを作れたら。足を運んででいただけるとうれしいです」と見どころを語った。

 初日の3日には康氏とのトークショーを予定。睡蓮は「康さんの感想が怖いですけど、そこで『面白い』と言われたら、ちょっと『勝ち』だと思うんです」と、本人との〝対戦〟に向け、ほほ笑んだ。

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