アントニオ猪木さんの『酒豪伝説』酔って火照った体、裸で海にドボン、200m泳ぐ破天荒な”酔いさまし”

今野 良彦 今野 良彦
アントニオ猪木さん
アントニオ猪木さん

 アントニオ猪木さん(享年79)の口から、酒にまつわる豪快伝説を聞いたことがある。20年近く前だった。デイリースポーツ紙ではかつて「アントニオ猪木物語」という長期連載をしてしていた時期がある。筆者が私の業界での恩人でもあり、その連載の出稿を担当することになったのだ。その打ち合わせを兼ねて、六本木にある「全日空ホテル」に集まったときの話である。

 トレードマークの赤いマフラーを首に巻き、おなじみの「元気ですか」というセリフとともに部屋に入ってきた猪木さんが昔話を語り始め、いつしか話題が酒についてになった。そのとき、猪木さんから聞いた話を今も忘れられない。

 「仲がいい記者さんを集めて、ホテル一室を借り切って飲み会、忘年会なんかをやるんだけど、注ぐのも注がれるのも面倒くさいだろ。だから、ホテルにある浴室をブランデーのレミーマルタンと氷で満杯にしてさ。それを大ジョッキですくって飲むんだよ。ボトルで何本になるんだろうな。それを全部飲み終わるまで、飲み会は終わらないんだ。俺は平気だったけど、みんなは記憶をなくしたんじゃないかな」

 実はこの話には続きがある。ブランディーのボトルにして5本や10本ではきかない量を飲み、さすがの猪木さんも多少、酔っぱらい体がほてったらしい。「それでさ、体のほてりを冷ますのにどうしたと思う?海辺のホテルだったんで、そのまま裸で海に飛び込んだ。100メートル、200メートルは泳いだかな。よい子はまねしちゃだめだけどな」と豪快に笑い飛ばした顔が今でも脳裏に焼きついている。

 だが、ただ豪快な人ではない。1997年4月28日、弟子である格闘家・小川直也と初代タイガーマスクをともなって、山口県下関にある巌流島を訪れたときだったと思う。巌流島は剣豪・宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘した地で、猪木さん本人も故マサ斎藤と対戦した聖地である。同年5月に故橋本真也と対戦する弟子に闘魂を注入する儀式だった。このとき、ほとんど面識のない私に対し「乗れ」といって、巌流島に渡るためにチャーターした漁船に乗せてくれた。「俺のことより、小川をよく書いてくれよ」。そう差し出された手は大きくて、分厚く、そして暖かかった。

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