「一夫一妻制」の動物がいるという。20世紀初頭に絶滅したとみられる「ニホンオオカミ」もその一種とみられているが、種の保存として不利な部分はあるのだろうか。ジャーナリストの深月ユリア氏が海外の専門誌から情報を引用し、動物行動学者に話を聞いた。
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現在の日本は明治時代の欧米化の風潮に伴って1898年に民法上、〝一夫一妻制〟が定められた。他の地球上の動物で〝一夫一妻制〟は数少ないが存在する。
英科学誌「ライブサイエンス」によると、例えば、皇帝ペンギンは繁殖期ごとの一年かぎりの〝一夫一妻制〟だといわれる。オオカミも一夫一妻制だ。ただし、雌はパートナーの雄が群れから追い出されたり、けがや病気などで繁殖能力がなくなると、次のパートナーを探すそうだ。
ハクトウワシはパートナーが亡くなるまで〝貞節〟を守り、〝貞節〟のシンボルとされることもある。クロコンドルは自らが〝一夫一妻制〟を貫くのみならず〝一夫一妻制〟主義を群れの仲間に強要するという。パートナー以外と交尾をすると、群れの中で「村八分」にあうそうだ。
このような動物はなぜ唯一のパートナーを大切にするのか?
東北大学名誉教授で動物行動学者の佐藤衆介氏に筆者がインタビューしたところ、「〝婚姻〟は、自分の遺伝子を持つ子孫を残すことが目的です。餌が得にくい状況の場合、自分の子に対して、父親と母親の共同で子育てをする婚姻制が有効です。母親にとっては、自分の子であることは確信できますが、父親にとっては自分の子である確率を高くする必要があります。父親は母親の浮気に目を光らせ、母親は父親に自分および子に対し、世話や給餌協力をせがむこととなります。父親並びに母親のこれらの行動の動機には、当然、情動が必要であり、その生理的基盤はオキシトシン(触れあうことや、出産や授乳、子育てなどで脳内および血中へ放出されるホルモン。〝愛情ホルモン〟、〝信頼ホルモン〟、〝幸せホルモン〟とも呼ばれる)かもしれません。オキシトシンは、身内には親和行動を、部外者には攻撃行動を誘発します」という。
しかし、実際にニホンオオカミは絶滅し、皇帝ペンギンも絶滅が危惧されているが、やはり一夫一妻制は子孫を残すのに不利ではないだろうか?
佐藤氏によると、「絶滅は〝婚姻制度〟だけの問題ではありません。 過去には人による狩猟圧(※狩猟が野生動物に与える影響のこと)、現在では野良猫や外来種による捕食リスク増大、そして漁業拡大、温暖化、海洋汚染による『餌の得にくさ』の増大が主な要因です。捕食圧(※他の生物を捕まえて食べる「捕食者」が対象の生物群に及ぼす作用)は、婚姻制に関わりなく絶滅の要因となりますが、『餌の得にくさ』に対応する繁殖戦略として進化した一夫一妻制は、『餌の得にくさ』のさらなる増大により絶滅の危機に瀕しやすいと言わざるを得ないと言えます」
例えば、〝一夫一妻制〟のニホンオオカミの絶滅理由は人間による徹底的な駆除が行われ、山が開拓され餌を得にくくなったこと、ペンギンが絶滅危惧種になったのも海洋汚染と魚の乱獲に餌が得られにくくなったことや地球温暖化が原因だといわれる。
つまり、〝一夫一妻制〟の不都合より、人間が地球環境を破壊した要因が大きく、このような動物が生き残れるかの運命は「人間の手中にある」のかもしれない。