ランドセルのキャリー化で重量9割減 新商品を小学生ら開発 批判の声に「気持ちよく学校に。それだけ」

北村 泰介 北村 泰介
ランドセルをキャリー化した新商品「さんぽセル」の使用イメージ。体感重量が9割減となり、腰痛などの解消策になる
ランドセルをキャリー化した新商品「さんぽセル」の使用イメージ。体感重量が9割減となり、腰痛などの解消策になる

 小学生の心身への負担となる「ランドセル症候群」が問題視されている。その対策として、ランドセルをキャリー化するという小学生の発想によって開発された新商品が話題になった。一方で「ランドセルは背負うもの」という前提から批判的な声がネット上で相次ぐという現象も起きた。一連の動きをまとめ、開発に携わったスタッフの思いを聞いた。

 小学生が数キロのランドセルを背負うことによる慢性的な腰痛や背骨への負担、ストレスなどが懸念されている。一般社団法人教科書協会の「教科書発行の現状と課題(2021年度版)」によると、小学1-6年生が使う教科書のページ数は全教科の合計が05年の4857ページから、20年度は8520ページと倍近くに増加。だが、教科書を学校に置いて登下校する「置き勉」は、脱ゆとり教育によって困難になっている。

 そこで開発された新商品が「悟空のきもちTHE LABO」から発売された「さんぽセル」。ランドセルに取り付けてキャリー化できる2本のスティックだ。ランドセルの重さが5キロの場合、キャリー化した時の体感重量は約500グラムと9割減になるという。スティック自体も280グラムと軽く、収縮できるため、階段などでは取り付けたまま一時的に背負う。消耗するタイヤ部分は交換式で長期間使える。価格は税込5940円で、収益の一部を「廃校の遊び場への活用」に利用する。

 同社は、日本初の頭のほぐし専門店「悟空のきもち」が「子どもの可能性をビジネスチャンスにつなげる」というコンセプトで立ち上げた実験ブランド。今回、栃木県内の6人の小学生の発想を生かし、大学生も協力して「小学生による小学生のための製品」が誕生。特許も取って4月から発売し、現時点で3か月待ちとなる累計約3000台の注文を受け、8月から生産を現在の約5倍に引き上げるという。

 ところが、ネット上ではランドセルのキャリー化に異論を唱える1000件以上もの意見が書き込まれた。「ランドセルを背負うのは両手を空けて危険がないようにするため」「ランドセルは後ろに転んだ時に頭を打たないためにある」「背負って歩けば下半身が鍛えられる」…。当事者である小学生たちはそうした大人の指摘に「なんでキャリーを持ったまま転ぶって思うの?普通、手を離します」「そもそもランドセルが重いから後ろに転ぶのでは?」「灯油缶を毎日背負ってる大人のひとが言うなら許します。大人は軟弱にならないよう背負いますか?」などと反論した。

 こうしたやり取りを受け、開発をサポートした21歳の大学生・太田旭さんが、よろず~ニュースの取材に対し、思いを吐露した。

 -批判を受けて。

 「もともと、脱ゆとり政策など大人の都合に振り回されてランドセルが重くなり、健康被害が出るようになりました。『かわいそう』と言いつつも、ランドセル症候群からは、大人は守ってはくれていません。そこで、小学生が勇気をもって行動すると、今度はあら探しや揚げ足取り…。耐えることしか許さないという、前例主義や思考停止的な圧力を目の当たりにして、日本の未来が明るくならないのってこういうことだなと感じました。同時に、ここで折れてはいけないと感じ、社会が無視できない数の『さんぽセル』を利用者の友だちにも配る資金としてクラウドファンディングを5月30日から開始しました」

 -「子どもをビジネスに利用している」と言われたりはしませんか。

 「そういう意見はほぼないです。僕は、小学生のアイデアに可能性を感じて商品作りの手伝いをしました。逆に、元気な小学生に大人は利用されるべきだと考えていて、こんな小学生たちが未来に向けて社会を動かした成功体験を踏み台に、さらに飛躍してほしいと思います。僕たちもまだ大学生ですが、未来のために利用される大人の1人でもありたいと思っています」

 -小学生と大学生が組んだ経緯は。

 「ラボには10歳ぐらいから大学生までいます。シェアハウスしている10人くらいの大学生を中心に、今回の開発チームの小学生は廃校で遊んでいるところから仲良くなった子たちで、保護者の方の同意もいただき、進んでいきました」

 -子どもの発想力について。

 「今回の批判を受けて、大人はたくさん我慢をしたり、すり減らしているうちに、変化することが怖くなっていると感じました。なぜなら、現状維持の側に回るほうが楽だし怖くないからです。その点、発想では子どもが大人に負けるわけないと感じていますし、アイデアの良し悪しに年齢は関係ないです。変化を怖がる大人になる前に、子どもたちに変化を楽しむ成功体験を作っていければ、未来の日本は明るくなると信じています。子どもは大人の下位互換ではありません。むしろ優れているってことにも着目して、その面では大人が利用された方がいいんじゃないかと思っています」

 太田さんは「作った小学生たちは気持ちよく学校に行きたい。それだけです」とも代弁した。既存の価値観や常識にとらわれず、「ランドセルを引いて歩く」という子どもたちの発想がこの夏以降、街中で具現化するか。

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【「さんぽセル」クラウドファンディング】

https://the-labo.com/sanposeru-crowdfunding.html

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