オミクロン株の流行によって新型コロナウイルスの新規感染者が急増している第6波では陽性率の高さが際立つ。陽性率の高さは検査数の不足や、数字に表われない未検査の感染者が潜在している可能性を示す。ジャーナリストの深月ユリア氏がデータと共に現状を説明し、医療従事者や専門家らに対策を聞いた。
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「軽症」「致死率が低い」といわれてきたオミクロン株が世界中で猛威をふるう中、日本でも感染者数と共に死者数も増えている。現在、多くの都道府県で新型コロナを治療する指定病院はオミクロン感染による入院者であふれ、感染者が増え過ぎてPCR検査が追い付かない状況だ。症状がある人も検査待ちの状況になっている自治体もあるため、陽性率が上がっている。
特に神奈川県、東京都の陽性率が異常値を更新し、2月8日時点の神奈川県の1週間平均陽性率は84・93%、東京都の同日時点の陽性率は38・7%となり、9日から神奈川県は陽性率の公開を停止した。神奈川県は昨夏のデルタ株のピーク時の陽性率でも30%を超えていなかった。この数字は海外諸国と比べると高く、海外から不安視されている。日本が第6波となった時期、陽性率が高いとされたイスラエル、フランスは30%以下、米国も最大30%ほどの時期があるものの、現在は10%台にピークアウト。英国も最大10%ほどでピークアウトしている。
陽性率はPCR検査のCT値、特異度、感度などさまざまなファクターが関連するため、数字のみを海外と比較しても国によって検査条件、環境も異なるのだが、結果的に、米国疾病予防管理センター(CDC)は2月7日、日本への渡航に関する注意レベルを「レベル3:高い(High)」から、4段階中最高の「レベル4:非常に高い(Very High)」に引き上げた。同日、レベル4に引き上げられた国は、日本、アルメニア、キューバ、イスラエル、リビア、オマーン、コンゴ民主共和国の7か国。いったい何が起きているのだろうか。
神奈川県の新型コロナウイルス感染症専用ダイヤルに問い合わせたところ、担当者は「医療機関の業務がひっ迫していて、正確な数字が公表できないので陽性率の公表を一時停止しています。医療機関のひっ迫が落ち着き次第、公表を再開します」との説明だった。
医療ジャーナリストの吉澤恵理氏はこの現象について、「オミクロン株は世代時間(他の人に感染させるまでの時間)が約2日と短く、症状も軽いため、自覚症状が出る前に他の人に感染させてしまっているという現象が少なくないと思います。特に若い世代(特に幼児、小学生)に広がったことで家庭内感染が起きて感染拡大に加速がかかっていると思います」と解説した。
その上で、吉澤氏は「家庭内感染を防ぐには(1).感染者と部屋を分ける(2).感染者の看病をする人は、限られた人に決める(3)感染者・同居者、マスクを着け、感染者が乳幼児でマスクができない場合には、看病をする側がマスク、フェイスシールドまたはゴーグルを着ける(4)小まめな手指消毒(5)小まめに換気。1、2時間に1度、5~10分程度(6)ドアノブや共用部分の消毒(7)汚れたリネン、衣服の洗濯は感染者と分ける(8)ゴミは密閉して捨てる…などの感染対策が重要だと思います」と指摘した。
東京と神奈川にある診療所「ナビタスクリニック」の理事長で内科医の久住英二氏は「日本ではオミクロン株の感染力の割にPCR検査が足りていません。陽性率が高いのも、検査が追いついていない証拠です。PCR検査はその都度、保健所に全例報告するのを止めて効率化し、政府は北欧で安く大量に売られている抗原検査キットを輸入して供給するべきです」と訴える。
吉澤氏が指摘する家庭内感染対策、久住氏が指摘するPCR検査の拡充と効率化はいずれも必要だろう。
ただし、指定感染症2類のままで検査数を増やせば、保健所の業務がひっ迫してしまう。現在、政府内でも議論されているが、保健所の負担を軽減し、より多くの病院でPCR検査、治療ができるよう医療体制を整えるためにも、新型コロナを指定感染症2類から5類に変更するという施策も解決法になるかもしれない。
とはいえ、コロナ治療薬は高額。米医薬品大手・メルクの経口薬「モルヌピラビル」は5日分の薬代が8万円だ。5類の場合は自己負担分が発生してしまう。 「金持ちしかコロナ治療できない」ということにならないためにも、5類に変更する場合は公費が治療費を賄う法制度を併設する必要がある。いずれにしても、今すぐにできることは感染対策。引き続き警戒して生活する必要がある。