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「平成の米粒写経」とは?消えた音楽記録メディア「MD」極細背面に字を書いた平成の記憶「CD過保護」も

北村 泰介 北村 泰介
携帯音楽プレーヤーに差し込んだMD。極細ラベルに文字を書き込む苦労もあった※「平成レトロ博覧会」(東京キララ社)より
携帯音楽プレーヤーに差し込んだMD。極細ラベルに文字を書き込む苦労もあった※「平成レトロ博覧会」(東京キララ社)より

 1989年1月8日から2019年4月30日まで続いた「平成」において、今ではほぼ流通しなくなった「モノ」がある。その一つが、音楽の記録メディアとして平成前期の90年代に台頭した「MD」だ。81年生まれの平成文化研究家・山下メロ氏は新刊著書「平成レトロ博覧会」(東京キララ社)で、極細の背面ラベルにタイトルなどを手書きする行為を「平成の米粒写経」と命名した。「モノ」そのものでなく、そこに付随した「行為」の記憶を懐かしむ意義について、同氏に話を聞いた。

 MDとは「ミニディスク」の略称。92年(平成4年)に発売され、それまで主流だったカセットテープに変わる存在となった。高音質、聴きたい曲へのランダムアクセス、高速録音、編集作業、曲名などを入力して再生中に液晶で情報を確認できる等の利便性があり、サイズも7センチ弱四方のコンパクトな手のひらサイズで重宝された。

 ただ、問題はラベルのシールを貼るMD背面の幅が2ミリほどしかないこと。“腹”部分の広いスペースに貼ったラペルに文字を書くことは容易だが、ラックなどに並べた状態で内容の情報を認識するには、やはり、背面に書く必要がある。カセットテープのケース背面は約1センチの幅があったが、MDでは極細ペンで細心の注意を払いながらアーティスト名やアルバムタイトルなど書き込んだ。山下氏はその作業を「米粒に写経する行為」に例えた。

 「みんな、ほんとによく書いていたと思います。今思えば、おかしいだろって(笑)。当時はなんにも思ってなかったですけど、なんであんな細い所に文字を書いていたんだろうって。パイロットの『ハイテックC』という極細のペンがなかったら書けなかった」

 また、平成は昭和末期に登場したCDが音楽メディアの主流になった時代。キラキラと虹色に輝く盤面と共に、レコードのように「ターンテーブルの上でひっくり返さなくてもいい」(※それによってA面とB面の構成を考えたアルバム作りの概念も変わった)、「半永久的に聴ける」などとして普及した。

 そんな“文明の利器”を大切に扱うべく、CDを保護するアイテムが続々と登場。盤面に薬剤を塗布して専用のクリーニングクロスで拭く商品、ケースにしまう際の保護マット、伸縮性のある素材の輪をCD盤の外周にはめるリングプロテクター…。「そこまでしなくても」と思わせる現象を、山下氏は「CD過保護」と呼び、「それだけ平成初期にはCDを大事にしていたことが分かってきます」と指摘した。

 だが、今ではサブスクなどを利用する主に若い世代のCD離れが進み、かつて主役の座を奪われたレコードも再評価されて生き残っている。CDは多様化する音楽メディアの一つとなり、MDに至ってはデジタルデータへの急速な移行を背景として昨年に生産終了した。

 「これまでカセットテープやレコードが懐かしむ対象で『MDやCDを懐かしむなんて、そんなバカな…』という扱いを受けてきた。でも、時を経て、世の中から消えかけた時には懐かしく思う対象になる。それは何かというと『エピソード』なんですよね。『MDの背中に細い字、書いたよね』『いろんなものでCDを守っていたね』と、みんなが共感して懐かしめるかどうかが重要で。当時めちゃめちゃ売れたアーティストのCDを見て懐かしい…と思うのも分かりますけど、今でもネット配信で聴けるし、ジャケットもデジタルで見られる。むしろ、その周辺にあって、みんなが残さずに忘れてしまったCD保護の商品とかを、きちんと残してあげることが重要だと思ったので、今回の書籍では意識して入れました」

 モノそのものより、そこにまつわるエピソードを懐かしむこと。山下氏は「知らない世代に『へぇ、こんな感じで使ってたんだ』と、音楽を聴くまでの苦労も含めた過程を知ってもらいたい。不便で大変な思いをしてから音楽を聴くと、同じ曲でも聴こえ方が変わる。その過程に意味がある。『このキャラ懐かしいよね』だけでもいいんですけど、キャラやモノだけでなく、『暮らし』そのものを今後、伝えていかなければいけないのかなと思います」と使命感を示した。

 極細ペンでMDの背中に目を凝らしながら文字を書いた平成の記憶。肝心の音楽を忘れても、そんな実体験が時代を生きた証しとなる。

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