友人などに会うと「うちは夫婦で協力して育児してますよ」と言い、SNSには子どもとの笑顔の写真を載せる夫に対して、静かに怒りの炎を燃やす妻がいる。実際、夫がやってくれる育児は、オムツ替えやお風呂、休日の公園遊びといった「イベント的」なものばかりだ。それ以外の、夜泣き対応や病気の看病、日々の保育園の準備といった、地味な育児のほとんどは妻任せである。
では、夫婦が本当の意味で育児の当事者として協力し合うためには、何が必要なのだろうか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞いた。
ー「自称イクメン」夫に妻がイライラする、典型的な言動とは何ですか?
最も典型的なのは「やったこと」を過大にアピールする言動です。たまにおむつを替えただけで「俺はイクメンだ」と胸を張ったり、少し家事を手伝ったことを大きな成果のように語ったりするケースが挙げられます。
妻からすれば、自身が日々こなしている育児・家事タスクのほんの数十分の一に過ぎないことでも、夫にとっては特別な「仕事」なのです。そのため、「やってあげた」という感覚が強く、妻が感謝するのが当然だと考えてしまう傾向があります。
結果として、妻は「私が毎日やっていることは無視?」という不満と虚しさを感じることになります。
ー夫と妻の間で「育児をやっている」という認識にズレが生まれてしまうのでしょうか?
夫が「自分は育児をやっている」と勘違いしやすい背景には、主に2つの理由があります。
1つは、「育児は妻が主体」という根強い価値観のため、男性が少し育児に関わるだけで周囲から過剰に評価され、育児参加のハードルが低い現状があるためです。
もう1つは、妻が育児の全体像を把握しているのに対し、夫は育児の「おいしいところ」だけに関わることが多く、育児の「量」と「質」に対する認識に違いがあるからだと考えます。
ー妻側は、夫に対してどう育児に関わってもらうのが効果的ですか
夫の言動に不満があっても、妻が不機嫌な態度を取るのは逆効果です。
夫に育児にもっと関わってもらうためには、感情的にならず、建設的に考えることが重要です。夫がおむつ替えをしたら「ありがとう」と感謝を伝え、次に「お風呂掃除もお願いできるかな?」と次のステップを提示するなど、地道なコミュニケーションで夫を「育てる」ことが、協力的な夫にする最も効果的な方法です。
ー夫が「育児の主体的な当事者」になるためには、どのような意識改革が必要ですか
夫としては、育児を「手伝う」という意識から「共同で遂行する」プロジェクトと捉え、責任者の一人としての当事者意識を持つとよいでしょう。育児の全体像を把握し、妻が日々どのようなタスクをこなしているかを知る努力が求められます。
また、子どもと遊ぶ楽しい時間だけでなく、夜泣きや病気の対応といった大変な時間にも主体的に関わり、育児の本当の重みと責任を理解しましょう。
夫婦関係はお互いを尊重し、育て合う関係です。夫も妻の言葉に耳を傾け、成長する努力が求められます。この努力の先に、夫婦が人生を共に乗り越える未来が待っています。
◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー。
大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、お客様を支えている。