「子供たちの手が離れたら、あなたとは別れます」まるでドラマの台詞のように聞こえるかもしれないが、これは決して他人事ではない。子育てという共通の目的を終えた途端、それぞれの道を歩み始める「熟年離婚」の背景には、妻たちの静かな決意が横たわっていることが多い。
なぜ妻は子育て後の離婚を考えるのか、そして夫としてその危機を回避するために何ができるのか、夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞いた。
ー 子育てを終えたら離婚したいと妻が思ってしまう理由は何でしょうか?
一つは夫に対する長年の不満でしょう。日常の些細なすれ違いから、価値観の不一致やコミュニケーションの欠如、夫の家庭への無関心といった多岐にわたる問題が積み重なった結果だと考えます。
子供がまだ小さい間は「子供のために」と自らに言い聞かせ、不満を心の奥底に押し込んできた妻が、「鎖」から解放されたとき、堰を切ったように抑え込んできた感情が吹き出すのでしょう。
夫にすれば働いて家にお金を入れており、家庭人としての役割を果たしていると考えているかもしれません。しかし、妻が求めているのは経済的安定だけではありません。
感謝の言葉や、家事や育児への参加、妻への気遣いなどが感じられなければ、夫に対して不十分だと感じるのでしょう。
ー関係改善のために夫がすべきことは何でしょうか?
仮に愛想をつかした妻が家を出て行ってしまった場合は、もう手遅れだと思います。一方で、妻から離婚の意思を伝えられたとしても、まだ一緒に住んでいるのであれば関係改善の可能性はゼロではありません。
「当たり前」という意識を捨てて、家事や食事の用意など妻の行為に対して感謝の気持ちを持って「ありがとう」と言葉にすることが重要です。さらに自分のことは自分でするという意識をもって、できることから始めましょう。脱いだ衣類を洗濯籠に入れたり、簡単な食事の準備は自分でやったりといった行動が大事です。
最も重要なのは、妻の存在価値を認めて尊重することです。妻が家庭で果たしている役割、妻自身の人間性や努力を認め、それを言葉や態度で示しましょう。
ー離婚の危機を乗り越えた夫婦の事例はありますか?
妻から熟年離婚を告げられたものの、何とか関係修復に至った事例があります。その夫は妻に対してこれまでの至らなさを謝罪しました。「君が家を支えてくれていたことに気づかなかった。本当に申し訳ない。そして、ありがとう」と、感謝の気持ちを伝え続け、妻任せにしていた家事を率先しておこない、妻の話を真剣に聞くように努めました。
「今さら遅い」と冷ややかだった妻も、徐々に心を開くようになり離婚の危機を回避できたのです。すべてのケースがこのように好転するわけではありませんが、夫が変わらない限り関係修復は困難でしょう。
◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー。
大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。傾聴することで安心安全な「心の拠りどころ」を提供している。