「お客様、試食ではないのですが…」ザルに盛られたブドウ、うっかり食べてしまった法的責任は?【弁護士が解説】

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秋の行楽シーズン、道の駅に立ち寄ると試食ができる採れたての新鮮な果物がずらりと並び、思わず手が伸びてしまう。ザルに盛られたつやつやのブドウを見て一粒つまんで口に入れたところ、店員から「お客様、試食ではないのですが…」と声をかけられたら、あなたはどうするだろうか。

ほんの出来心、あるいは完全な勘違いな一口に法的責任は発生するのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。

ー試食と勘違いして売り物を食べた場合、刑法上の「窃盗罪」は成立しますか

刑法235条に定められる窃盗罪は、「他人の財物を窃取した者」を罰するものです。この犯罪が成立するためには、いくつかの構成要件を満たす必要があります。今回のケースで最も重要なのが「故意」の有無です。

窃盗罪における故意とは、他人の物と認識したうえで、盗む意思を指します。今回の事例では、「試食」だと信じ込んでおり、「売り物」であるという認識がありません。盗むという意思が存在しないため、窃盗罪に問われる可能性は低いと言えるでしょう。

ー食べた分の代金を支払う義務はありますか

食べた分の代金を支払う義務は発生します。これは民法上の「不当利得」という考え方に基づくものです。不当利得とは、法律上の正当な理由なく他人の財産や労務によって利益を受け、その結果として他人に損失を与えた場合、その利益を返還しなければならない、という制度です。

店側の許可なくブドウを食べるという利益を得ている一方で、店側は売れるはずだったブドウが失われたという損失を被っています。店側は客に対して、得た利益、すなわち食べたブドウの代金相当額を返還するよう請求できます。勘違いであったかどうかにかかわらず発生する義務です。

ー「迷惑料」や「商品1パック分の代金」を請求された場合、支払う必要はありますか

請求の法的根拠となり得るのは「損害賠償」です。民法では、故意または「過失」によって他人の権利や利益を侵害した場合、それによって生じた損害を賠償する責任を負うと定められています。

原則として、賠償の対象となるのは、その行為によって社会通念上、通常生じると考えられる範囲の損害(実損害)に限られます。この場合に店側が被った直接的な損害は「食べられてしまったブドウの代金」です。

「迷惑料」は、あくまで店側の感情や都合によるものであり、法的な支払い義務はありません。また、「一粒食べたのだから一パック分支払え」という請求も、実際に生じた損害を大きく超えているため、過大な請求と判断される可能性もあります。

ー子どもが食べた場合はどうなりますか

売り物を食べてしまったのが責任能力のない低年齢の子どもであった場合、子ども自身は損害賠償責任を負いません。代わりに、親などの監督義務者が、子どもに代わって賠償責任を負います。

責任能力があるとされる年齢の子どもが自らの判断で食べてしまっても、支払い能力がないケースであれば、親自身が監督義務違反を理由に損害賠償責任を問われる可能性もあります。

大切なのは、このようなトラブルを未然に防ぐことです。「試食」の表示がない場合は、安易に手を伸ばさず、店員に一言確認するなどして、不要なトラブルが生じないように気をつけましょう。

●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 

大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。

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