通勤時間帯の駅やバス停では、次に乗車する人が静かに列を作って待っている。そこに並ぶ人たちのモラルによってきれいに作られた列は、ある種の美徳とも言える光景だ。しかし、その列に平然と割り込んで来て、静かな怒りや徒労感を感じることは少なくない。
多くの人の認識では、行列への割り込みはマナー違反であるものの、やっても罪になるものではないと思われているだろう。しかし場合によってはマナー違反だけでなく、法に触れる可能性があることを忘れてはならない。ではどんな割り込み行為が犯罪になるのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー行列への割り込みが「犯罪」になるのは、どのようなケースなのでしょうか?
軽犯罪法という法律に抵触する場合ですね。軽犯罪法第1条第13号には以下の内容が規定されています。
「公共の場所において多数の人に対して著しく粗野若しくは乱暴な言動で迷惑をかけ、又は威勢を示して汽車、電車、乗合自動車、船舶その他の公共の乗物、演劇等の催物、割当物資の配給その他の公共の便益を享受し、若しくは待つ者の列に割り込み、若しくはその列を乱した者」
この内容を噛み砕くと、「威勢を示して」「公共の乗物」を待っている列に割り込むことを禁止していると読み取れます。電車やバスに並んでいる人に、荒っぽく強引に割り込んだ場合は軽犯罪法違反として処罰(拘留または科料)の対象となる可能性があると考えます。
ー軽犯罪にならないような割り込みでも、他の犯罪に発展することはありますか?
仮に声を潜めて大人しく割り込んだ場合は、軽犯罪法違反とはならないと思われます。ただし、既に並んでいた人との口論や、暴力に発展した場合は脅迫罪(刑法第222条)や暴行罪(刑法第208条)に該当する可能性があります。
「うっかり」や「悪意のない」割り込みであったとしても、口論や感情的な対立がエスカレートすれば、周囲の人々にも不安や不快感を与えてしまい、最悪の場合、刑事事件へと発展してしまうことを忘れてはいけません。
ー実際に行列に割り込まれた場合、どのように対処するのが賢明でしょうか?
割り込まれた際の不快感や怒りは理解できるものの、感情的な対応は状況を悪化させるため避けたほうがいいでしょう。あくまでも冷静に注意をし、聞き入れられない場合は駅員やバスの運転手などの責任者に状況を説明し、対応を委ねるのが安全で効果的です。
もっとも重要な原則は、「自身の安全確保を最優先する」ことです。割り込みという不正に対して正義感を持つことは大切だが、そのために自身が危険な目に遭っては元も子もありません。冷静さを失わず、状況に応じて適切な第三者の介入を求めることが、賢明な大人の対応だと考えます。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。