「人生100年時代」という言葉が現実味を帯びるなか、50代後半はもはや「仕事のゴール間近」の年代とはいえない。長年勤めた会社が導入した早期退職制度を機に、「これまでの経験を活かし、もう一度社会に貢献したい」と新たなキャリアを模索し始めるビジネスパーソンもいるだろう。しかしその先に待ち受けるのは、想像以上に険しい道である。
50代後半の転職市場とは、一体どれほど過酷な戦場なのか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞いた。
ー50代後半の転職はどれほど厳しいのでしょうか
企業から見ると、「なぜこの時期に転職するのか」という疑問が先に立つ場合が多いでしょう。役職を外されたり、給与が下がったりといったネガティブな理由を勘ぐられてしまうのです。
「新たな挑戦をしたい」というポジティブな動機を語ったとしても、「その年齢でチャレンジと言われても…」というのが企業側の本音かもしれません。残りの勤務年数を考えれば、育成にコストをかけるより実績のある人材をピンポイントで採用したいと考えるのは当然でしょう。
ー企業が50代後半の志望者にどんな懸念を抱くのでしょうか。
懸念される点は、「プライドの高さ」と「柔軟性の欠如」です。面接の場で「前の会社では部長でした」と過去の肩書を誇らしげに語る人がいるようなのですが、これは逆効果にしかなりません。「それは、あなたの会社だから通用した役職ですよね?」と見透かされてしまいます。
ー50代後半の求職者が成功するためのポイントとは
企業が期待するのは、即戦力性であり、スキルの「汎用化」能力です。「汎用化」とは、特定の会社や環境でしか通用しない経験を、どこへ行っても再現できる汎用的なスキルとして再定義し、言語化する力のことです。
たとえば、「前職で培った課題解決の手法は、貴社が現在抱えているAという課題にも応用可能であり、同様の成果をもたらすことができると考えています」のように、成果に至るまでの「思考プロセス」と「再現性」を明確に提示できるかがポイントです。
ー再就職活動が長期化した場合のモチベーション維持の方法は?
転職活動が長期化すれば精神的に追い詰められ、不採用通知が続けば、「自分は社会から必要とされていない」と考えるのも仕方ありません。ただし、メンタルが落ち込む時は、自分にしか目が向いていないことが多い印象です。「これだけの経験を積んできたのに、誰も評価してくれない」という内向きな思考が、自らを苦しめてしまうのでしょう。
「評価されない自分」を嘆くのではなく、「自分のスキルを使えば、この会社をどう良くできるだろうか」と意識を「外」に向けることをおすすめします。大局的な視点を持つことで、転職活動は「自分を売り込むための戦い」から、「社会に貢献するための機会探し」へとその意味合いが変化します。結果的に、前向きに転職活動を続けられると考えます。
◆七野綾音(しちのあやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント
やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。