健康維持などのためにプールを利用する高齢者の悩みとして「濡れた水着が体に張り付いてスムーズに脱げない」ことがあるという。学校用水着大手「フットマーク」(本社・東京)はその問題を解消する商品「座ったままでも脱げる水着・下 男性用」を1月から発売した。現場の開発担当者に「シニア世代の水着事情」も合わせて話を聞いた。
現在、同社で販売するフィットネス水着の購入者の約半数以上は「高齢者」だという。その年齢設定について、担当者は「65歳以上という想定です」とし、「多くの方は健康維持や体力強化目的で定期的に(プールのある施設に)通われていますが、お医者様から重力の負担が足腰にかからない水中での運動を勧められたことをきっかけとして水中運動を始める方もいらっしゃいます」と説明した。
では、プールを利用するシニア世代の実態とは?
担当者は「レーンごとで運動内容を決めているプールが大半で、ご自身のペースで泳がれる方、水中ウォーキングをされる方、アクアビクスのプログラムに参加される方…の3つが主な運動内容かと思います。また、プールに通う中でお友だちを作られる方も多く、コミュニケーション目的でフィットネスクラブに通われる方もいらっしゃり、プールに通うモチベーションにもなっていると思います」と補足した。
そこで問題になるのが、濡れて体に張り付いた水着を「スムーズに脱げない」ことだった。
担当者は「水着は洋服と違い、ある程度の密着性が必要なため脱ぎ着がしにくい構造になっています。しかし水着の着脱はパンツを持ち上げ、片足ずつ履くなど衣類と同様の着方がこれまでの主流で、脱ぎ着に苦労する高齢者の姿をたびたび見かけていました。特にパンツを脱ぐ時について、『起立し、パンツのウエストを足首まで引き下げ、片足ずつ抜き脱ぐ』という行為が難しいという声が多くあります。『起立したまま』という状態や『「起立したまま、かがむ』ことが障壁となっています」と解説した。
立ったままが難しいなら、座ったまま脱げるようにすればいい。そんな発想の転換から活用されたのが左右の両足側面に付けた白い「ファスナー」だった。座ったままファスナーを下に降ろせば、するりと脱げる。体が濡れた状態でトイレに行く際も、ファスナーを少し開けることで着脱が楽になったという。
では、水着の着脱に手間取ることの弊害とは何か。それは「周囲に迷惑を掛けている」と感じるストレスなのだという。
担当者は「この水着を開発するきっかけは運動目的でプールに通っている高齢者の女性が、手の力が弱いために濡れて体に張り付いた水着を一人で脱ぐことが難しく、スタッフの方に迷惑をかけてしまっている…と、直接お話しをうかがったことです。そこから座ったままでも簡単に脱げる水着ができないかと考えました」と明かした。
その意見を起点に、まずは女性用を開発し、2021年に発売。すると「男性用はないのか」「男性が着てもよいか?」といった問い合わせが多くあり、同様に需要のある男性用を今回開発した。
デイサービス利用者からは「施設に来る時はゆっくり家で着てくるのだけど、脱ぐ時は時間が掛かってしまって申し訳ない…」という声もあったという。そこには誰かを待たせていることへの罪悪感、着脱を手伝ってもらうスタッフに迷惑をかけているのではないかという懸念がある。
担当者は「自分でできるようになることが自信につながるのではないかという現場からのご意見もありました」と指摘。介護現場での活用にも手応えをつかんだ。
水着を脱ぐ際に足が引っかかるなどして転倒するといった身体的な危険性よりも、「ストレス」や「恥ずかしさ」を感じることの方が多いという現実。それは、例えば、スーパーやコンビニのレジで支払いに戸惑う高齢者が後ろで待つ人に対して抱く後ろめたさやプレッシャーにも通じるものがあるかもしれない。水着という分野においては、その問題解消の一助となりそうだ。