有名俳優も出演していながら、ソフト化も配信も放送もない上に、映画館での上映も不可となっている〝封印作品〟が存在する。そんな映画史の波間に沈んでいた超レア作を発掘して上映する特集企画「東映ニューポルノのDeepな世界 RETURNS」が6月1日から8月2日までの2か月間に渡って、都内の映画館・ラピュタ阿佐ヶ谷で開催される。昨年から今春にかけて「必殺シリーズ」や「あぶない刑事」の書籍を精力的に出版し、今回の企画も担当したライターの高鳥都氏に話を聞いた。(文中一部敬称略)
今回上映される「東映ニューポルノ」とは、そもそも何か。
高鳥氏は「成人映画を意味する『ポルノ』といえば1971年に始まった日活ロマンポルノが有名ですが、もともと同じ年に東映が使い始めたキーワードで『ポルノ女優』として売り出された池玲子と杉本美樹の『温泉みみず芸者』(71年、鈴木則文監督)で一躍その名を広めます。東映ポルノは芸者や女番長(スケバン)を主役にした、ある種、バカバカしいゴージャスさが売りですが、東映ニューポルノは500万円という低予算で作られた穴埋め用の新路線で、当時の事件を元にした実録犯罪ものなど『狂気』を前面に押し出したものが目立ちます。上映時間も1時間に満たない50分前後なのが特徴。(東映という)大手映画会社が送り出した最もマイナーなジャンルと言えるでしょう」と解説した。
70年代、「ピンク映画より日の当たらない」とまで評されたという幻のジャンル。だが、80年生まれの高鳥氏のように、後追い世代の旧作邦画マニアに注目された。2010年代から都内の名画座で上映され、一部で再評価されている。今回の特集タイトルにある「リターンズ」とは、13年に同館で上映を予定されながら諸事情で封印された「女医の愛欲日記」(73年)と「史上最大のヒモ 濡れた砂丘」(74年)の2作が解禁上映されることを意味する。
「女医~」(6月1-8日上映)の主演女優・白石奈緒美は後に著名な料理研究家となり、姉は国際的に活躍した詩人・白石かずこ。劇中、全裸で馬に乗るシュールな場面に度肝を抜かれる。さらに「家政婦は見た!」などで国民的女優となる市原悦子がヤギと一緒にエキセントリックな役で出演。大島渚組の常連俳優である佐藤慶、小松方正、戸浦六宏、渡辺文雄らも脇を固める。「~ヒモ」(7月5-12日上映)は滋賀銀行9億円横領事件をモチーフとし、東映の大部屋俳優からスターとなる川谷拓三の埋もれていた〝幻の主演作〟だ。
ちなみに、「女医~」は09年と10年の2回にわたってラピュタ阿佐ヶ谷(俳優・佐藤慶特集)と、10年にシネマヴェーラ渋谷で上映。「~ヒモ」は11年に銀座シネパトス(13年閉館)で開催された「川谷拓三映画祭」で上映された。いずれも、それ以来の上映となる。
高鳥氏は「『女医』や『ヒモ』と同じ実話路線で、幻の傑作と呼ばれた『女子大生失踪事件 熟れた匂い』(74年)もニュープリントで復活します」と補足。さらに、直木賞作家・田中小実昌が好色な僧侶役で怪演する「処女かまきり」(73年)などの超レア作が順次、夜9時から連日上映される。出演女優、映画史家らのゲストと高鳥氏によるトークイベントも開催予定だ。
高鳥氏は「最低の条件で作られた日陰の存在ゆえのアナーキーさがあり、作り手の個性が発揮されています」と作品群の魅力を指摘し、「現在では不可能あるいは不適切な表現も含めて、50年前の『下世話な挑戦』を見てほしい。メジャーに寄り添うだけでなく、マイナーを掘り起こすことも映画ジャーナリズムの使命だと思います」と力説した。
ただ、こうした企画は東京ゆえに実現したという側面もある。今後、地方で開催される可能性はあるのか。高鳥氏は「ぜひやりたいです。しかし、現在のミニシアターの状況を考えると、地方で特集上映を行うのは簡単ではないと思います。だからこそ、まずは関東の映画ファンに再発見してもらい、その波が広がってほしい。配信という可能性もありますし、やはり多くの人が見てこそ『幻のジャンル復活』と言えるでしょう」と締めくくった。