NHK大河ドラマ「光る君へ」第17回は「うつろい」。俳優・井浦新さん演じる藤原道隆の死が描かれました。道隆はお酒をよく飲んでいたようですが、『大鏡』(平安時代後期成立の歴史物語)によると「乱酒の祟り」で亡くなったとあります。
ある年の賀茂祭に出かけた時などは、鳥の形をした酒甕(さかがめ)を作らせて、それに酒を入れて飲んでいたようです。盃を傾けるほどに当然、酔いは回ってきます。道隆は藤原済時・藤原朝光らと同じ車で賀茂祭見物に出かけたのですが、3人とも酔っ払っていたのでしょう、車の前後の御簾を悉く捲り上げて、冠を脱ぎ、髻(もとどり。髪の毛をまとめて頭上で束ねたところ)を露わにした格好となっていました。同書はそれを「見苦しい」としています。
道隆の飲み友達とも言うべき、済時や朝光も大酒飲みで、酔いに任せて、装束を取り乱し、他人に助けられて車に乗せてもらい帰宅することもあったようです。しかし、道隆は酷く酔う割りには、醒めるのも早かったとのこと。道隆の酒好きは亡くなる間際も変わらなかったようで、人々が「御念仏を」と勧めても「飲み友達(済時や朝光)は極楽にいるだろうか」と語っていたようです。
このような言葉が出たのも「酒」「酒」と終始思っていたからではなかと『大鏡』は推測しています。今で言うアルコール依存症の気があったのではと筆者は感じています。道隆は長徳元年(995)4月、43歳で亡くなりますが、道隆が亡くなった当時、都では疫病が蔓延していました。しかし、道隆は疫病で亡くなったわけではありません。『栄花物語』(平安時代の歴史物語)によると「水ばかり飲みたがる病」となっていたようです。これは、飲水病、つまり糖尿病だったと考えられています。
「糖尿病ネットワーク」のホームページには「アルコールを過度に飲んでいると、糖尿病をはじめとする、さまざまな疾患のリスクが上昇する」(「糖尿病の人はアルコールにご注意 適度な飲酒は健康的 連休中に飲みすぎないための7ヵ条」2023・8・7)と記載されています。道隆は過度な飲酒から糖尿病を発症、それが悪化して亡くなったと思われます。まさに飲み過ぎは御用心と言うべきでしょう。