「離婚して夫が出て行くと言っている」夫が名義人でもそのまま賃貸物件に住めるのか

平松 まゆき 平松 まゆき
写真はイメージです
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 賃貸借や隣人トラブルなど、住まいに関する身近な法律について解説しています。

 ときどき「離婚して夫が出て行くと言っているのだが、私(妻)は夫が借主となっているアパートにそのまま住み続けられますか」というご相談を受けます。

 民法は「賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない」(民法612条1項)と定めています。ですから、原則として貸主の承諾をもらわない限り、夫から妻への賃借権の無断譲渡になってしまい、賃貸借契約が解除されてしまうということになりそうです。

 しかし判例は、「賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない事情があるときは、契約は解除できない」としています。とても回りくどい言い方ですが、簡単に言えば、賃貸借契約というのは信頼関係が重要で、これが保たれているならば、契約を解除するという厳しい制裁を科すべきでないと言っているのです。

 たとえば、夫婦は長らくその物件に住み続けていて、家賃も滞納したことがなく、たまたま離婚して夫が出ていくことになっただけでそれ以外の環境は何も変わらないというような場合は、貸主として特段困ることはないでしょう。それなのに、契約名義が夫になっているというだけで、契約違反を理由に残された妻を退去させるというのはあんまりです。

 そこで、このような場合は、貸主は賃貸借契約を解除することはできず、妻はそのままその物件に住み続けられるということになります。更新料や新たな敷金礼金の支払いも不要です。そしてこの理屈は、内縁の夫婦が別れた場合も同じだと考えられ、貸主との間で信頼関係が失われていないならば、そのまま住み続けられるでしょう。

 ただし、賃貸借契約書と上の名義と、住んでいる人の実態が異なる事態になるのは事実です。ですから、賃貸借契約書は作り直した方が良いでしょう。基本的には不動産会社に契約書の作り直しを持ち掛ける流れになりますが、断られてしまった場合など、お困りの際は一人で悩まずにお気軽にご相談ください。

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