「ゲームを通して仲が悪くなってほしい」異色のインディーゲーム『違う冬のぼくら』の開発者に聞いた

大原 絵理香 大原 絵理香

 『違う冬のぼくら』は、2023年2月14日にアーリーアクセス版(※)を発売した2人プレイ専用のパズルアドベンチャーゲーム。正式リリース前より7万ダウンロード(※無料のフレンドパス版を含む)を超え、先日中国厦門で開催された「厦門国際アニメマンガフェスティバル」で最優秀ゲーム銅賞を獲得するなど、「満足感がすごい」「別視点でのプレイが新鮮」などとの感想とともに、早速話題となっています。

※アーリーアクセス版…開発中のゲームを未完成であるとユーザーに知らせたうえで販売すること。ただし本作はゲームとしては完成しており、物語は最後まで楽しめる。

 2人のプレイヤーはそれぞれ家出をした二人の少年となり協力して旅を進め、「どこか遠く」を目指すストーリー。片方のプレイヤーはほのぼのした緑豊かな「動物の世界」、もう片方のプレイヤーは荒廃したモノクロな「機械の世界」が見えており、同じタイミングで同じ空間を旅しているはずなのに、それぞれまったく違う世界が見えているのが特徴です。

 また、旅はボイスチャットなどを用い二人で情報を共有して協力して進めていきます。しかし片方のプレイヤーにしか操作できないギミックがあったり、同じタイミングで同じ空間を旅しているはずなのに、見えている風景が違うために片方のプレイヤーが急に空を飛んでいるように見えたり、片方のプレイヤーにしか行けない場所があったりと、タイトル通り”違う冬”を旅することになります。

 今回は不思議な世界観設定をもつ本作を制作したインディーゲーム開発者のところにょり氏にインタビューを行いました。

 インディーゲーム開発者。独特な世界観とアートセンスを持ち、オリジナリティ溢れる不思議な作品を次々と生み出している。代表作『ひとりぼっち惑星』は2016年、SNS上で大きな話題を呼んだ。講談社ゲームクリエイターズラボの第1期メンバーとして、2人専用パズルアドベンチャーゲーム『違う冬のぼくら』をリリース。ゲームシステムに「特殊な設定」を組み込むことで、「ゲームでしか出来ない体験」を作り出すことを得意としている。

ーー同じゲームなはずなのに「動物の世界」「機械の世界」と、世界観がまったくちがう本作を制作したきっかけや、着想のきっかけを教えてください。

ところにょり氏:2018年〜2019年くらいにマーダーミステリーとかTRPGとかが流行ったタイミングにぼくもゲーム仲間と一緒にやっていたんですが、同じ場所にいて同じことを議論して同じ答えにみんなで辿り着こうとしているはずなのに、実は裏で別のことを考えているような状況がすごい面白いな、と思ってそれをゲームに落とし込めないかなと思ったのがきっかけです。

最初に思いついたのは、『火の鳥(復活編)』や『紫色のクオリア』のような、片方が現実世界で片方が機械の世界に見えているというようなものだったのですが、それだと片方の比重が大きくなってしまうので、両方とも現実とはちがう世界を見ているといういまのかたちになりました。

ーー二人で協力するときは、どのような会話やプレイが行われることを想定されて制作されましたか?

ところにょり氏:お互い見えているものが違って、自分が見えているものと相手が見ているものが同じではないという前提のゲームなので、自分のいま思っていることをそのまま伝えても伝わらないとか、相手が言っている言葉をそのまま解釈しても伝わらないとかといった状況が起こります。そのため、お互いがフィルターをかけ、一回相手の言っていることを自分なりに解釈していきながら遊んでもらいたいなと思っていました。

ゲームをスタートさせた直後に会話をするなかで話が噛み合わずに相手に対して「なに言ってるんだ」ということにちょっとずつ気づいていく流れになるのが理想です。

ーー2023年2月14日にアーリーアクセス版が発売されましたが、ユーザーの反応はいかがでしょうか。

ところにょり氏:ありがたいことに良い反応が多く、多くの方にプレイしてもらったり、おもしろいと言ってもらえたりしており、このゲームを作ってよかったなと思いました。

また、ゲーム実況も多くの方にしていただけているのがとてもありがたいです。ある程度ゲーム実況向きだろうな、という予測はしていたのですが、ここまでの反響というのは予想外でとてもうれしいです。

もちろん、さまざまなご意見もいただいているので、正式リリースに向けて改善させていただいております。具体的には、シナリオやストーリー部分は変えないのですが、片方に比重が大きくなりすぎてしまっている部分をどちらもうまく機能できれば良いなと思っています。

ーー本作で一番伝えたかったことはなんでしょうか。

ところにょり氏:このゲームおもしろいですよね!ということはもちろん伝えたいのですが(笑)現実でも当たり前に起こる自分と他者が見ている世界はちがうということ。90%一緒だから会話に齟齬が出ないだけで、実は全然別の世界を生きていることに気づいてもらえたらうれしいです。

また、このゲームを通して、基本仲が悪くなってほしい……と思っているんですよね(笑)絶対に壁が出来る作りをしているので、それを乗り越えたらもっと仲良くなれるし、乗り越えられなかったら仲悪くなるし……でもそれでいいかな!と僕は思っています(笑)。

ーーすこしダークな部分が出てきた気がしますが……(笑)ところにょりさんがゲームを作るうえで根底にあるテーマはなんですか?

ところにょり氏:『ひとりぼっち惑星』など、過去作からある程度一貫しているテーマは「孤独感」です。『違う冬のぼくら』も2人プレイ専用ゲームではあるのですが、ゲームをプレイするくらい仲のいい相手と同じか近しい価値観を共有していると思っていたのに結局相手とは壁があるんだな、ということや、そこから生まれる価値観の違いから結局自分の孤独は解消できないんだな、ということを感じて欲しいと思っています。

ーーそういった「孤独感」にフォーカスされているのは、ご自身の人生が反映されているんでしょうか。

ところにょり氏:いえ、むしろ僕は温かい家庭で育ったかなり健全な人間だと思います(笑)。でも、だからこそ、「孤独感」や、寂しい部分とかに惹かれるのはあるかもしれません。一人旅を積極的にして、一人になることの楽しさを感じていた時期もありました。

ーーでは、そんな「孤独感」をベースとした、次回作の構想などがあれば教えてください。

ところにょり氏:いまは正式リリースに向けてのことばかり考えてしまっているのですが、常につぎのゲームの構想は頭の中でしているんですが……そうですね、つぎはかわいい犬が出るゲームとか作ってみたいです!

ーーかわいい犬!それは楽しみです。では、最後に一言お願いします。

ところにょり氏:正式リリースに向けて頑張っています。このタイミングでNintendo SwitchやiOS/Androidでも発売するので、いつでもどこでも好きな相手と遊んでいただけることになると思います。

PC2台持っている人は少なく、実は一緒に住んでいる人同士の方がプレイしにくかった状況が、もっと手軽に遊べるようになるので、ぜひいろんな方に楽しんでいただけたらと思っておりますので、8月10日までお待ちいただけたら幸いです。

■タイトル:違う冬のぼくら

■プラットフォーム:Steam (https://store.steampowered.com/app/1801110/BOKURA/)

本発売でNintendo Switch、iOS、Androidに対応

■対応言語:日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)

■リリース日:現在アーリーアクセス中、2023年8月10日(木)本発売

■ジャンル:2人専用パズルアドベンチャー

■希望小売価格:1,420円(税込)

■プレイ人数:2人

■パブリッシャー:株式会社講談社

©tokoronyori/Kodansha Ltd.

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