“クレムリン攻撃”は5・9戦勝記念日にらむ自作自演の可能性 キーワードは「正当性」「威嚇」 識者が解説

深月 ユリア 深月 ユリア
戦争は長期化…揺れるモスクワ(ロイター)
戦争は長期化…揺れるモスクワ(ロイター)

 ロシア大統領府があるモスクワ中心部のクレムリンが「ウクライナの無人機で攻撃された」とのロシア側の発表があった。だが、その真偽は明確になっていない。ジャーナリストの深月ユリア氏が、ウクライナ出身の国際政治学者であるアンドリー・グレンコ氏に見解を聞いた。

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 5月3日、ロシア大統領府は「2機の無人機が首都モスクワのクレムリンを攻撃した」と発表した。ロシア大統領府は「攻撃はウクライナ政府によるもの」、「ロシアは報復する権利がある」と主張。ウクライナ政府は関与を否定し、アメリカのブリンケン国務長官も「ロシア政府の言うことを鵜呑(うの)みにはできない」とロシアの主張を疑っている。西側諸国のインターネット上では「ロシアの自作自演ではないか」という噂が飛び交っている。いったい何が起きているのか。

 筆者が、ウクライナの国際政治学者で「ロシアのウクライナ侵略で問われる日本の覚悟」などの著者、アンドリー・グレンコ氏に取材したところ「ほぼ確実にロシアの自作自演である」という。

 グレンコ氏は「ウクライナにクレムリンを攻撃するメリットはありません。ウクライナの無人機はモスクワまで飛来してなく、そこまで防弾を飛ばす技術がありません。ウクライナはロシアの石油施設や鉄道を攻撃しましたが、それに便乗して自作自演したのでしょう」

 また、「プーチン暗殺を狙った」という説について、グレンコ氏は「クレムリンにプーチンがいるか分かりません。いたとしても広いクレムリンの中で、プーチンに標的を定めることは困難です」と指摘した。

 では、「自作自演」だとすれば、ロシアの目的は何なのだろうか。

 グレンコ氏は、その一つとして「戦勝記念日」が持つ意味を根拠として挙げた。同氏は「戦争が長期化し、ロシア国民の士気が下がっています。5月9日には、第二次世界大戦でロシア(※当時はソ連)が(ナチス)ドイツに勝利した戦勝記念日がありますが、『正しい戦争をしている』という象徴になるような日の前にロシア国内の愛国心・団結力を高めること。『ウクライナのネオナチに狙われている祖国を守るためにみんなで団結しよう』というようなプロパガンダです。今後、ロシアは兵力を追加動員するでしょうから、動員する『正統性』を持たせたいのです」と解説した。

 そして、ロシア側のもう一つの意図として「西側諸国への威嚇」があるという。グレンコ氏は「西側諸国に向けて『ロシア本土が攻撃されたから、いよいよ本気を出すぞ!』と核兵器による攻撃をにおわせて、西側諸国を威嚇すること。西側諸国の中には『これ以上、ロシアを制裁するな』という意見が一定数ありますが。こういった威嚇は、ロシア制裁慎重派に対してはある程度の効力を持ってしまうと思います」と付け加えた。

 ロシア国防省は5月9日の戦勝記念日で、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミア含め、28都市で軍事パレードを行う予定だと発表している。この日、ロシア政府による新たな発表があるのだろうか。国家総動員するための戒厳令を導入するか否かも注視されている。

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