なぜ?注目の「男女共用」水着に「ジェンダーレス」と名付けられなかった理由 『体型』問題も考慮

北村 泰介 北村 泰介
体のラインが出にくい「男女共用セパレーツ水着」。男女同じ仕様で、性別を気にせずに水泳授業に参加できる
体のラインが出にくい「男女共用セパレーツ水着」。男女同じ仕様で、性別を気にせずに水泳授業に参加できる

 学校制服が性的マイノリティーへの配慮から男女のデザインを同一にしたスタイルとなっても、「ジェンダーレス」という呼称が着用者の〝重圧〟になるケースも指摘されている。夏が近づく今、授業用水着の場合はどうだろうか。学校用水着大手「フットマーク」(本社・東京)は19日、改良モデルとなって新発売される「男女共用セパレーツ水着」の発表会見を都内で行い、商品開発の経緯と共に、そうした社会的背景を元に「ジェンダーレス」ではなく「男女共用」とした商品名についての見解を示した。

 同社が開発した「男女共用セパレーツ水着」は学校用水着では初となる男女同じ仕様の水着。昨年度は、東京都と兵庫県の公立中学校3校が従来の水着と選択できる形で導入し、1学年で約半数の生徒が「男女共有」を選んだ学校もあった。今年度は200校以上の学校から採用検討の問い合わせがあるという。

 露出を軽減した長袖の上着とハーフパンツの上下に分かれた紺色のセパレーツ型で、体のラインが目立たないデザイン。性別を気にせず、水泳授業に参加できる。新商品には、重さや寒さを軽減するはっ水加工や腹部のめくれが気にならない「めくれ防止ループ」が加えられた。小売希望価格はサイズによって6710円から7150円(税込)となる。

  開発のきっかけは、5年ほど前から販売店を通じて「ジェンダーで困っている子どもに着せてあげる水着はないか」という生徒の親や教師からの声が相次いだことだった。

 同社の学校教育事業部営業担当の木村元気(もとき)氏は「最初に学校の先生からのお電話をいただいた時、私には『男女共用』という発想はなく、『通常の水着を着用していただき、上半身と下半身に(同社の別商品を)重ね着して体型を隠してください』と説明しました。その後も同じ問い合わせを毎年いただくようになり、年を追うごとに増えてきました。私は考えました。『ジェンダー問題という、人にはなかなか話しづらい内容をメーカーに直接電話で伝えていただくということは、本当は言いたくても言えないお子さんがその後ろにいっぱいいるのではないか』と。勇気を振り絞ったような意見を商品化したいと思い、『男女共用水着』を会社に提言しました」と経緯を明かした。

 さらに、木村氏は「今までにないコンセプトの商品であるため、販売時期が早過ぎても市場に受け入れられない。近年、学校教育のジェンダーレス化という大きな流れが出てきたタイミングで、昨年からテスト販売を開始しました」と付け加えた。

 従来の水着に抵抗を感じる理由はジェンダーの問題だけではなかった。「体型コンプレックス」も要因だったという。

 長野県の導入校に勤務する体育教諭は「水泳の授業をプールサイドで見学する生徒は女子が多かったが、男子もこのところ増えてきています。生徒に聞くと『自分の体型を(肥満、やせ形などのため)見せたくない』ということでした。体のラインなどを気にせずに授業を受けてもらいたいという思いから問い合わせをしました」と明かした。

 「ジェンダーレス」ではなく「男女共用」と名付けられた背景がそこにある。

 「ジェンダーレス水着」という商品名にしなかった理由について、木村氏は「男女共有という名称では響かない部分もあり、ジェンダーレス水着とした方が意味もすぐ理解いただいて販促もしやすかったのですが、やはり、実際に使用する生徒さんのことを考えると、『ジェンダーレス』という言葉があることによって、その商品を手に取りづらくなってしまう懸念がありました。そこで、この言葉をパッケージには使わず、1人でも多くの生徒さんから不安をとりのぞくために『男女共有』という言葉を使わせていただきました」と説明した。

 LGBTを対象とした「ジェンダーレス」という名称だと、着用することで〝強制カミングアウト〟になるという懸念もある。一方で「体型を見られたくない」「肌を見せたくない」「肌の疾患が気になる」「手術跡を見せたくない」「日焼けしたくない」といった理由を持つ生徒からも必要とされている。ジェンダー問題は「ワン・オブ・ゼム」の理由であって、特殊化しないという視点から、「男女共用」というネーミングに至った。

 同社は利用者からの要望を受けて「来年度は上下ばら売り、黒色も導入」と新展開を予告し、「ゆくゆくはこの商品(男女共用)に一本化したい」と目標を掲げた。今年度は同商品を「完全指定」(全生徒が着用)で採用する学校が3校あるが、導入を検討する学校の大半は選択制。あくまで「選択肢の一つ」として、水泳授業でも「男女」という概念を超えた新たな風景が広がっていきそうだ。

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