入学シーズンとなる4月、街で新しい制服に身を包んだ中高生らを目にすると、本格的な春の訪れを感じるが、近年は「制服事情」も変わってきている。例えば、「LGBTQ」の人たちへの配慮という社会背景から生まれた「ジェンダーレス制服」だ。国内の制服業界でいち早く開発した「トンボ」(本社・岡山市)の担当者が、よろず~ニュースの取材に対し、その経緯や理念、さらに「男性の体型を考慮したスカート」など新たな可能性について言及した。
3月半ばの平日夕方近く、都内で電車乗ると、その車両には下校中と思われる十数人の女子高生がいた。グレー系の制服スカート集団の中に1人だけ同色のパンツスタイルの女子生徒がおり、その自然体の姿は旧来の制服イメージから新鮮に映った。制服にも選択肢がある。今さらながらだが、多様性を示す事象の1つにこの制服があると感じた。
トンボは自社のホームページで「性の多様性に対応しつつ、全ての生徒様にとって着心地と心地(気持ち)が良いものを提供することこそが、制服メーカーの使命と考えます」という理念を掲げる。そのスタンスを踏まえた上で、同社の担当者に聞いた。
--ジェンダーレス制服を初めて商品化した経緯、焦点は?
「以前から女子パンツというアイテムはありましたが、ジェンダーレスをテーマとした商品開発を始めたのは2015年に文科省の『性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について』というパンフレットが公表されてからです。きっかけは関西地区の公立中高を中心に学校様より相談が増え、そのことが原因で制服のモデルチェンジを考えているという声が聞こえてきたことです。トンボの『ジェンダーレス制服』のポイントは3つあります。(1)選択肢を増やすこと。(2)性差を感じさせないデザインにすること。(3)多様な性を受け入れるための環境づくり…です」
--ジェンダーレス制服の採用校数、近年の推移は?
「『ジェンダーレス制服の採用校』という形でカウントをしておりませんが、大まかな数値として、パンツスタイルの採用校数は2019年に約450校、20年に約750校、21年に約1000校です。全国で『多様性に対応する制服の在り方』が問われるようになりました。当事者からの意見としては『レディースを着るのは抵抗あるが、ユニセックスを着るのは抵抗ない』といった意見があります。このことを踏まえ、『性差を感じさせないもの』をポイントに商品開発を進めています」
--「スラックス」とも称される、パンツスタイルを選ぶ女子生徒の比率は?
「購入率は1学年2人から4人程度の学校ありますが、学校様によって状況は異なります。学校側として、そもそも採用していなかったところや、採用していたが、告知等はしていなかった学校が入学説明会で説明するというケースは増えてきています。また、地域によっては防寒として全員購入といったところもあります」
--視点を変えて、女子生徒のパンツスタイルの逆パターンとして、男子生徒のスカートも商品として開発される可能性はありますか。
「女性がパンツを着用する文化は既に日本で定着しており、女子生徒がパンツを着用することは動きやすさや、寒さ対策、コンプレックスカバーなど様々な理由がありますが、男子生徒がスカートを着用することは、強制カミングアウトにつながってしまう可能性が高くなっております。既にカミングアウトしている生徒は気にせず着用できるかもしれませんが、カミングアウトしていない生徒にとっては、周囲の目を気にして選べなくなってしまいます。男性がスカートをファッションとして着用することが一般的になれば、また違った形になると思います」
--「強制カミングアウト」につなげないという視点ですね。
「トンボとしてのジェンダーレス制服の考え方は、あくまで強制カミングアウトしなくてもいいように、性差を感じさせない制服を作る事を重要視し、商品開発をすすめています。また、パンツスタイルと違い、スカートというアイテムは身体にフィットしたデザインではないため、体格に関係なく着用できます。そのため、体が男性の方用のスカートの商品開発を行ってはおりません」
「性差を感じさせないこと」が肝要だという。「あまりに『ジェンダーレス』や『多様性に配慮した』ということをアピールしすぎると、当事者には『ありがた迷惑』や『恩着せがましい』など逆効果となってしまっている、という声もお聞きします。重要なのはバランスです」。そうした配慮が制服に込められていた。