ルーマニア政府が「AI顧問」を世界初導入、政治家不要の未来は来るか?日本に導入の可能性は?

深月 ユリア 深月 ユリア
写真はイメージです(phonlamaiphoto/stock.adobe.com)
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 人工知能(AI)が政府の「名誉顧問」になった国がある。その国とはルーマニア。国名を聞いて、日本の中高年世代だと、まず「コマネチ」が頭に浮かぶだろう。1976年のモントリオール五輪で3個の金メダルを獲得し、〝白い妖精〟とうたわれて日本で国民的ヒロインになった女子体操選手、ナディア・コマネチのことだ。同時に母国であるルーマニアへの関心も高まったものだが、月日が流れて21世紀の今、この国では何が起きているのか。ジャーナリストの深月ユリア氏が「お国柄」について識者に話を聞いた上で、「AI顧問」の可能性を探った。

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 仏AFP通信など海外メディアの報道によると、ルーマニア政府が世界で初めて、政治に「AI顧問」導入をすることを3月1日に発表した。

 「ドラキュラ」伝説と「美男美女が多い」ということで有名な東欧の国、ルーマニアはAI先進国でもある。ルーマニア商工会議所会頭で中央大学元講師(比較文化)の酒生文弥氏によると、ルーマニアの風土や歴史は日本と類似点があるという。

 同氏は「ルーマニアは温泉、ミネラルウォーターに関して欧州最大の資源大国です。地中海料理の一つであるルーマニア料理はとてもおいしくてヘルシーです。第二次世界大戦では日本の同盟国で、ドイツ、イタリアと共に枢軸国として戦いました。また、『吸血鬼ドラキュラ』のモデルになったブラド三世は侵略してきたオスマン兵を串刺しにしてオスマントルコを退却させ祖国の独立を保ちましたが、日本でいえば織田信長のような救国の英雄ですね」と解説した。

 その国が政治にAIを導入する理由として「人口の少なさ」が挙げられる。ルーマニアの人口は、同国の国家統計局によると2022年時点で1903万人と、EUの中で最も少なく、労働力不足の問題から、かねてAI技術発展に力を入れてきたという。

 「AI顧問」は「Ion(イオン)」と名付けられた。ルーマニア国民はウェブサイト上で「Ion」とチャットができて、「Ion」はリアルタイムに世論を拾い上げ、政府に伝えるという役目を担う。さまざまな政治政策において活躍が期待されているが、ルーマニア政府は手始めに「Ion」を活用して税務申告書の処理や課税対象を査定して、財政システムを効率化する予定とのことだ。

  酒生氏は、その背景として「ルーマニアは日本以上にIT先進国であり、隣国ハンガリーと並んで世界的に若きITエンジニアを輩出しています。 愛称の『Ion』は英語の『John』に当たり、日本語だと『太郎君』といった親しみのある名前になります。(3月6-8日に)来日したルーマニアのヨハニス・クラウス大統領は同国をEUの中でも高度な民主的・経済的な国に発展させようという理想を掲げています」という。

 ルーマニアは1989年の東欧革命で民衆がチャウシェスク独裁政権を打倒した歴史もあって、自由・平等を愛する「民主主義(デモクラシー)精神」が強い国民性だという。酒生氏は「89年のクリスマスに起こった革命でルーマニアは自由主義陣営に返り咲き、幾多の苦難を乗り越えて04年にNATO加盟、湾岸戦争に参戦後、07年にEU加盟しました。現在はEUの優等生として年7%の成長を続けています。今回のAI顧問採用も、EU政治をAI化していく先駆けだと思います」と解説した。

 同氏は「Ion」について、「AIに政治判断を諮問するという今回の試みは、この世を民主的で万民が幸福になれる理想社会に近づけくための歴史的な一歩です。政治家に任せたら私利私欲に染まりがちですが、 AIが資源・生産流通技術などのビッグデータを読み込めば『平等公正にして最善の解』が見いだされるでしょう」と期待を寄せた。

 では、AI顧問を今後、日本にも導入すべきなのか。

 酒生氏は「日本でも、ルーマニアを見習って、AI顧問を導入することで、吉田松陰の説いた『草莽崛起(そうもうくっき)』を実現して、直接民主制に近付けるのではないでしょうか」と見解を語った。この言葉は「在野の一人一人が草の根的に世直しをする」という意味だという。

 いずれ、ルーマニアを参考に日本を含めた世界中の民主主義国に「AI顧問」が導入される未来が訪れるかもしれない。ただ、忘れてはならないのは、AIを開発・プログラミング、そして駆使するのは人間であるということだ。悪意あるプログラマーが開発したAIが悪用される可能性も否めない。AIが政治家の一部の仕事を代替しても、「公正平等」な社会実現のために「善良な人間」の役割が完全になくなることはないだろう。

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