性的マイノリティーとされる「LGBTQ+」に配慮したジェンダー平等の社会を目指す時代にあって、主に男性社会の価値観の中で普及した1980年代の日本で生まれた造語「ニューハーフ」を肩書きとして芸能活動を続けるタレントがいる。ジャーナリストの深月ユリア氏が本人を直撃し、その思いを聞いた。
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マツコデラックス、はるな愛、ryuchell(りゅうちぇる)ら、LGBTタレントの活躍が目覚ましい。俳優・モデル・殺陣師として活躍している室井瑞希(みずき)氏(年齢非公開)は見かけこそ、ヨーロッパのハーフのようにも見える美女だが、自身を「ニューハーフタレント」としてカミングアウトしている。
俳優でもある筆者は室井氏と映画撮影などの仕事現場を幾度か一緒に経験したことがある。室井氏は言葉使いや仕草においてしとやかな印象があり、女性更衣室を一緒に使うことにも何の違和感もなかった。しかし、アクション映画の現場では男性に負けないキレキレのアクション演技をしていた。女性のしとやかさと美しさ、男性の体力と運動神経と、よいとこ取りのようにも見える室井氏にインタビューした。
-ニューハーフタレントとして活動を始めたきっかけは?
「16歳くらいからタレント活動を始めました。元からアクションが好きで、スタントから始めました。自分自身が今でいう『トランスジェンダー』だという自覚はありましたが、その時はまだカミングアウトできませんでした。25-26歳の時に、ゲイバーのママさんと知り合って、その方がありのままの自分自身を明るくさらけ出す素敵な方だったんです。そのママさんから勇気をもらって、徐々にカミングアウトしていきました」
-「ニューハーフ」はジェンダー平等の概念が広まる前の時代に流布した言葉で、現在は「トランスジェンダー」や「LGBT」という言葉が使われるようになっているが、今の時代でも「ニューハーフ」という言葉にこだわりはある?
「トランスジェンダーやLGBTという言葉には『ジェンダーは平等』だという価値観が含まれているようにとられがちです。しかし、まだ『ジェンダーは平等』だと思っていない方々、それらの言葉に対して否定的な方々もいるので、私は謙虚に『ニューハーフ』という言葉を使っています」
-ニューハーフだからよかったこと、幸せを感じたことは?
「舞台や映画で男性役、女性役どちらも演じられることですね。どちらの気持ちも分かるし、きれいな衣装とメイクでした役もできるし、アクションもできるので、どちらの役にもなりきれるんです」
-ニューハーフだから嫌だったことは?
「価値観や考え方、悩みは人それぞれなのに、最初から『お前、男性だろ』だと言われることがいまだにあります。とても悲しくなります」
-ニューハーフタレントとして努力していることは?
「普通の女性と変わりませんね。毎日お肌のケアをする(化粧水、乳液、美容液)、入浴中にオイルでマッサージしたり、髪にトリートメントする。夜にジムで運動する。食事は1日2食で、朝にトーストとコーヒー、夜にご飯と鶏肉・サラダなど粗食です。暴飲暴食はしないようにしていますが、『何を食べてはいけない』みたいなこだわりはありません。また、芸能を始めてからは毎月、美白点滴とプラセンター注射もするようになりました。生涯、現役でいたいので、頑張ってます」
-芸能生活で一番頑張ってきたことは?
「人との付き合いですね。ひとつひとつのご縁を大切にして、感謝をすること。色んな方々に支えられの『今』があります。そして、またありのままの自分を隠さずさらけ出すこと」
-趣味は?
「イラストを描いたりします。人物も描きますが、動物の絵を描くと癒されます。また作曲(ロックバラード系)もします」
-日本社会に願うことは?
「ジェンダー平等になって欲しいですね。人それぞれ、さまざまな価値観、考え方がありますから、同性婚を認めるなど法律も平等になって欲しい。トランスジェンダーのみならず、女性もいまだに差別を受けることがありますから、女性差別もなくして欲しい。差別や偏見なく、個々の違いを受け入れて、すべての国民が平等に幸せに生きる社会になって欲しいです」
ありのままの自分をさらけ出し、しとやかにキレキレのアクションで見る者を魅了している室井氏の今後に注目だ。