仕事などで接点を持った相手と久しぶりに再会し、あいさつをしたにもかかわらず、自分のことを認識されていなかったということがある。そんな気まずい体験をした時、あなたならどうする?「大人研究」のパイオニアにして第一人者、『大人養成講座』『大人力検定』など多くの著書を世に送り出してきたコラムニストの石原壮一郎氏が「大人の切り返し講座~ピンチを救う逆転フレーズ~」と題し、その打開策をお伝えする。
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【今回のピンチ】
取引先のエレベータで、以前に何度か会った部長さんとバッタリ。「お久しぶりです」と挨拶したところ、「あ、ああ。え、えっと……」と微妙な反応だった
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こちらは「よく知っている人」のつもりだったのに、相手にとって自分はそうではありませんでした。名前がすぐ出てこないのは仕方ないとして、顔も覚えてくれているかアヤしいところです。
まさか「忘れたんですか、そりゃないですよ。薄情だなあ」と責めるわけにはいきません。現時点の「どうでもいいヤツ」というポジションから、「すごく感じ悪いヤツ」というポジションに転落してしまいます。
ここは、全力で「大人力あふれる美しい態度」を貫きましょう。それが小さなショックを乗り越えて、自分を忘れた相手にこっそり勝った気になる近道です。
まずは、あくまで明るい口調で「デイリー物産の北村です。〇〇の件ではたいへんお世話になりました」と、あらためて自己紹介。相手が「ああ、そうだそうだ!」と思い出したら、そこからがクライマックスです。
「いやあ、このごろ私、男前に磨きがかかって別人みたいだってもっぱらの噂で、会った人に『デカプリオと間違えちゃったよ』なんて言われるんです。失礼しました。ハハハ」
そう言って高らかに笑いましょう。実際にイケメンだと使えませんが、これを読んでいる方の99%は、きっと問題ありません。
同じ階で降りた場合は、仕上げとして必要のない名刺交換もオススメ。「ちょっと前に部署が変わったので、あらためまして」と言いつつ、以前と同じ名刺を差し出します。
ここまですれば、自分としても満足感に包まれながら立ち去れるし、こっちの背中を見送る部長さんも、剣の達人の技を見たときのような感動に包まれてくれるはず(たぶん)。
それはさておき、ピンチを招いたそもそもの原因は、「お久しぶりです」の段階で社名と名前を言わなかったことにあります。よっぽど近しい関係以外は「相手は自分を覚えていない」という前提で接するのが、大人の謙虚さでありリスク回避術と言えるでしょう。