「日ペンの美子ちゃん」50周年 受講者2・5倍の6代目作者「派手な事もやっていきたい」

山本 鋼平 山本 鋼平
6代目美子ちゃん(C)服部昇大/学文社
6代目美子ちゃん(C)服部昇大/学文社

 学文社のがくぶんボールペン習字講座イメージキャラクター「日ペンの美子ちゃん」が今年で誕生50周年、日ペンの運営組織も90周年を迎えた。2017年に6代目として「日ペンの美子ちゃん」を引き継ぎ、記念イヤーに立ち会う漫画家・服部昇大(39)に5年間の歩みを聞いた。

 黒と緑の市松模様、宇宙を旅した億万長者、流行のアニメやグルメ。時折全開させるギリギリを攻めた時事ネタ、オタク・パロディネタでも話題を呼ぶ6代目「日ペンの美子ちゃん」は、公式ツイッターで毎週水曜日に新作を配信中。服部は「宣伝漫画なのでなるべくウケる方がいいんですが、特にツイッターだとアニメだとかのオタクネタがウケるので、ついつい増えていってる気がします。あと、ネタに困ったら動物を捕まえる話とか、半年に一回は描いてる気が…。話作りはネタを積極的に探すというより気持ちに余裕がないとアイディアや柔軟な展開を思いつかないので、ネットやニュースを見ながらぼーっとしてる時間が多いですね」と現状を語った。「時事ネタはニュースを参考にしたりするのですが、昨年はニュースがほぼコロナ一色の時期が長くて本当に大変でした。あんまり暗い話題ばかり書いてもしょうがないですし、でも世間の空気がコロナ真っ只中なのに全く関係ない明るい事書くのも変じゃないか?とか。世の中の空気というかムードも漫画の内容に反映してくるんだなと思いました」と振り返った。

 「美子ちゃん」は日本ペン習字研究会(日ペン)をPRするため1972年に登場。矢吹れい子、森里真美、まつもとみな、ひろかずみ、梅村ひろみ…作家が代替りしながら、絵柄や設定が時代を反映させて続いてきた。5代目の活動から約10年間の空白期間があったが、同人活動などで「美子ちゃん」のパロディ漫画を描いていた服部に学文社から6代目の依頼が届いた。

斜陽講座が反転

 通信教育を手がける学文社の、日ペンの美子ちゃん事務局は、5代目から6代目の空白期間を「ボールペン習字講座の新規入会者が減少していくなかで、他の講座に優先度をシフトしたためです。その間のある年の講座別売上ランキングではトップ10からも外れていました」と説明。その上で「2017年以降は各年ボールペン習字講座が1位に返り咲いています。ここ5年間の成果として、6代目美子ちゃんの活動前後で、ボールペン習字講座の新規入会ペースは2.5倍くらいにはなっています」と成果を語った。

 歴代を通した9コマ前後の漫画フォーマットを踏襲。同事務局では構成や企画は服部の原案を可能な限り尊重する。「服部先生の漫画は、細かいところに隠し要素があったりします。比較的最近ですと、美子ちゃんが懐かしの人気ゲームで名古屋撃ちを披露する回で、セリフでは何も触れずにテーブル筐体に小銭を積むという、リアルタイム世代あるあるが描かれています。それらに対して、フォロワーさん方でワイワイ突っ込みを入れていただくのも楽しみにしています」。ツイッターの紹介文は美子ちゃんのキャラを的確に捉えていると好評だが、服部ではなく事務局が担当しているという。

 6代目の期間にはアクシデントもあった。同事務局は「原稿届かない騒ぎ事件」と「ノルマ抜け事件」を挙げた。

 原稿届かない騒ぎ事件は2020年4月、新作の投稿が一度だけ水曜日ではなく木曜日に遅れた出来事。服部は一度も原稿が遅れたことがなく、信頼しきっている事務局が催促せずに待っていたところ、結局原稿が届かず当日の投稿を断念。服部側は作品データの送信が完了となっていたものの、メールに不具合が生じていた。時事問題を頻繁に扱うため、投稿時刻が遅くなると読者から「今日出てきた最新ニュースをネタにしょうとして、遅くなっているんじゃ」や「あまりにも攻めすぎた内容でボツになったんじゃ」などの反応を寄せられることがあるが、この時は単純な行き違いが原因だった。

 ノルマ抜け事件は「日ペンは〇〇年の歴史があって…」という宣伝コマ(通称「ノルマ」)が描かれなかった事例。「ある時に次回作のネームにノルマがなかったのですが、私が“服部先生の事だから何か意図があって”と勝手に解釈してそのまま掲載したら、単純に入れ忘れただけという事でした。かくして、皆さまから『宣伝がない!』という突っ込みをたくさん頂戴しました」と振り返った。

漫画、講座ともに新展開

 「懐かしくも、今までになかった美子ちゃん」をコンセプトとする6代目。これまで原画展、他業種とのコラボ、コラボカフェ、単行本化、アニメCM化など〝歴代初〟が展開されてきた。講座は会員数が伸び、昨年夏には左利き用コースは新設された。漫画との相乗効果が生まれている。

 記念イヤーを迎え、服部は「日ペンは〇〇年の歴史があって…というお決まりの台詞もついに90年になり、こんなキャラクターはそうそうないと思うので関われて光栄だと思います。『日ペンの美子ちゃんを描いている』と言うと圧倒的に中高年の人に知ってもらいやすくなりました。特に女性の。もともとの日ペンの美子ちゃんの認知度がすごいんだなと思いました。あとサイン会もやったのですがお客さんの大半が僕より年上、10~20歳上で本当にびっくりしました。今までそんな世代の人に自分の漫画が読まれることがなかったので」と、感慨深げに語った。

 今年に入り、3代目をモチーフとしたライバルキャラが新登場。服部は「以前にもAIのライバルキャラを出したりしたのですが、現代のテクノロジーの進化というか手書きに対するライバルって現代は本当に沢山あるなと思いました。当初はネットを舞台にした6代目という事で新しい美子ちゃんを確立する位のつもりで始めたのですが、もう5年も経ちましたし、ちょうど節目の年と言う事もあり、今年は過去シリーズのオマージュなど派手な事もやっていきたいなと思ってます」と意欲的。「毎週書くのは結構大変なのでコツコツと続けていくだけなのですが、目立つことが大事な宣伝漫画ですし時々は面白くて話題になるような回を描ければいいなと思ってます。『面白く描けた!』と思った回が大してウケなかったり逆に何の気なしに書いた回が大ウケしたり、漫画って難しいです。特に今年は6代目が5周年&美子ちゃん50周年なので盛り上げていきたいですね」と決意を口にした。

 

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