人気対戦格闘ゲームシリーズの最新作「THE KING OF FIGHTERS XV(KOF 15)」がSNKから2月に発売され、声優の生駒治美さん(55)がキングのキャラクターボイスを務めて30年の節目を迎えた。長寿アニメとは異なり、格闘ゲームでは極めて珍しい偉業。現在は大阪を拠点にする生駒さんに、心境を聞いた。
キングはムエタイを操る女性格闘家。1992年の「龍虎の拳」で初登場し、KOFシリーズは1994年の第1作から起用された。「CAPCOM VS. SNK」などにも幅広く活躍する有名格闘ゲームキャラ。生駒さんは「もう30年ですか?改めてつきつけられるとそんなに時間が経ったのかと不思議な感じです。四半世紀以上キングには大変お世話になっておりますね。私にとっていつも助けてもらえる友のような存在でした」と感慨深げに語った。
生駒さんは1992年当時、地元の大阪でラジオやテレビのCMボイス、ナレーションやリポーター、司会などの仕事を行っていた。読売テレビではアナウンス業務や天気予報を担当したという。
「元々、七色の声が出るナレーターとして売り出しておりましたので、できれば声優の仕事につければと願っておりました。ですがその当時、大阪ではアニメの仕事はなく、企業のマスコットキャラクターなどの仕事ばかりで、きちんとした作品はなかったですね。そんな時にSNKさんのキャラクターボイスのお仕事に出会えて自分自身が開花したように思います。その当時はスタジオもなく、ミキサーさんの横でマイクだけ用意されて、何人ものキャラを担当していくお仕事でした。私は色々な声色を出すのが得意だったので、やっと自分にあったお仕事をさせてもらえた喜びで歓喜しておりました」
SNKではキングだけでなく「サムライスピリッツ」のナコルルやシャルロット、「餓狼伝説」のブルー・マリーなど多数の女性キャラクターを担当。勝ち気な成人女性から可憐な少女までを演じ分けた。特に「サムライスピリッツ」のナコルルはカムイの巫女をキャラクター化した先駆けで、行政ポスターに起用されるほどの人気を集めた。
「ゲームが爆発的に売れ出し、キャラクターも個々に歩き出すと、しっかりとしたバックグラウンドも設定され、更にイメージが固定されていきました。そういえばそのころからキングはあまり変わっていませんね。次々に生み出される他のキャラクターも担当させてもらい、本当に幸せ者でした。特にナコルルは自分を鼓舞してくれる存在でしたね。ナコルル人気が出るたびにキャラクターと向き合い、純粋で自然体のナコルルを追及していく作業が楽しみでもあり、不安でもありました。自分の演じるナコルルで受け入れられるのか毎回心配でした。ラジオドラマなどをやらせていただけるとキャラが明確になってきて、ナコルルの世界観にハマっていきました。たくさんのスタッフさんと声優さんが集合して山中湖で合宿収録した時が最高に楽しい思い出になっております。キングやシャルロット、ナコルルのお陰で今まで挑戦したことのない、歌やイベント、ラジオなど幅広い仕事を経験させてもらい益々世界が広がって参りました」
生駒さんは結婚を機に1996年に上京。東京ではアニメ作品へ活躍の場を広げた。「こどものおもちゃ」松井風花役を皮切りに、「おじゃる丸」金ちゃん役、「発明BOYカニパン」ナッツ役や、「新・秘密のアッコちゃん」カン吉役、ほかにも「夢のクレヨン王国」「浦安鉄筋家族」「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「ヨシモトムチッ子物語」などの作品に出演した。
「子供を持つ母になってからはとにかく子育てでいっぱいいっぱいでした。そんな生活感溢れる日常生活を忘れさせてくれる存在が長年担当させていただいたSNKさんのキャラクター達と、『おじゃる丸』の金ちゃんでした。私にとって担当させていただいているキャラは生駒治美に戻れる有難い存在でした。でも今、振り返ってみると仕事も家庭も楽しみながらも精一杯突き進んでいたように思います。そしてゲームキャラは忘れた頃にひょっこり現れ、和ませてくれる友になっていったように思います。いつもそばで寄り添ってくれている友は、キングをはじめシャルロットやナコルル、ブルー・マリーなどSNKのキャラクターでした 」
現在は大阪で暮らし、司会やゲーム関連の仕事を担う。NHK-Eテレで放送中の「おじゃる丸」は今年25年目を迎え、3月29日深夜に放送される「おじゃる丸25年スペシャル『ヘイアンチョウ鬼神決戦(おにがみけっせん)』」に出演する。「25周年にふさわしいドラマチックなストーリーになっていますので是非ご覧下さい。金ちゃんのびっくりな姿もお楽しみいただけます」と語った。
ゲームキャラの代替わりに見舞われながら、キングを今も担当する。1991年「ストリートファイターII」の登場から本格化した対戦格闘ゲーム。その黎明期から同一キャラを演じ続ける声優は少ない。
「自分の中では演じていてしっくりとくるのがキング。声色も地声に近かった面もあったのですが、クールでお姉さんぶっていますが根は優しく格闘以外ではうまく表現できない不器用さに共感しています。なので、演じる時にはクールなキングにふっとした時に出る優しさや、恋に対しての不器用さはさりげなく入れるようにしています。そしてなにより蹴りの演技には気を遣っております」
演技ポイントを語りつつ、ゲーマーやSNKへの感謝も言葉にした。
「SNKのキャラクターはスタッフの方々は勿論、担当している声優、そして長年愛して下さっているファンの方々、みんなで育んできたものになっていると思います。一時は大変心配しましたがまたこうやって新作を発表されて心から喜んでおります。ゲーム界の歴史書のように、1ページずつまた新たな歴史をみんなで刻んでいくゲームになれば嬉しいですね。30年、一つの節目を迎えて更なる旅立ちの第一歩の作品になればと期待しております」
記念の節目を迎え、一人の声優としても、新たな夢を抱く。
「私事では子供達も成長し生活も落ち着いてきましたので、また生駒治美の楽しい活動も広がれば良いなと期待しております。趣味では今テニスに夢中で日々精進と挑戦の日々が続いております。コロナ禍になって自分を見つめ直し、のんびりと休んでいる暇はないなと改めて感じました。そして自分の好きな事を突き詰める!何事も一生懸命に取り組んでいればいつか道はひらけるとキング達に教えられた通り、己を信じて突き進んでおります。まだまだファイターの血はとどまるところを知りません」
力強い誓いとともに、前を向いた生駒さん。キングのように恐れず怯まず、真っ向勝負で挑んでいく。