ライバル棋士が口をそろえる「羽生将棋」の神髄 29年在籍のA級陥落も即復帰の可能性十分

福島 大輔 福島 大輔
羽生善治九段
羽生善治九段

 将棋の羽生善治九段が、4日に指された第80期名人戦A級順位戦・永瀬拓矢王座戦で敗れ、来期のB級1組への陥落が決定した。羽生九段は1992年度の順位戦で昇格し、93年度のA級1期目で名人位を獲得。以来、29期連続でA級(名人位含む)に在位していた。

 4日現在で、歴代1位の公式戦通算1497勝、タイトル獲得通算99期という、押しも押されもせぬ将棋界随一のレジェンド。95年、七冠をかけて戦っていた当時に〝見る将〟に目覚めた記者としては、一つの時代の終わりを感じさせられた。

 羽生将棋の強さについては、さまざまな見方がなされている。並み居るプロの中でも、その棋力が群を抜いていることは疑いようがない。一方で、「純粋な将棋の強さで言うと、羽生先生に匹敵するプロは他にもいる」との声もある。そうした中で、誰もが口をそろえるのは、羽生九段の「勝負」の強さだ。

 羽生九段の2年前にプロ入りし、タイトル戦で4回対戦するなどしのぎを削ってきた森下卓九段は、かつて羽生将棋について「実は、将棋から伝わってくる強さというのは、あまり印象にないんです。個々の手というより『勝負』に対する強さが際立っていたと思います」と分析。一世代上の天才棋士として名高い谷川浩司九段を引き合いに出し「谷川先生は、ひらめきのすごさを感じることがたくさんありました。羽生さんは、全体的な作りや流れがずぬけていた」と話した。

 その根底として「勝つことに対する執着心が、他の棋士に比べて桁違い」と指摘。勝負の世界に生きる棋士が勝利に執着するのは当然と思えるが、森下九段は「年を取ると、意外にそうでもない。勝ちたいと思う気持ちを保ち続けるのは難しいし、だんだんと集中力がなくなっていくんです」と説明した。

 中でも、羽生九段の並外れた執着心を表す端的な特徴は、トレードマークともなっている「手の震え」だという。森下九段は「普通、将棋に集中していても、手は震えないんです。震えたくても震えない。そこまで執着できないんですよね。羽生さんが震えるっていうのは、やはり勝ちたいという思いの強さなんでしょう」と敬意を込めて語った。

 50歳を超えた今も、羽生九段の執着心に衰えは感じられない。20年の竜王戦決勝トーナメント・梶浦宏孝六段(現・七段)戦では、最終盤での激しい右手の震えが話題となった。4日の終局後、感想戦では笑みも浮かべていた。それは恐らく、早々に来期に向け気持ちが切り替わった証だろう。

 羽生九段にとって30年ぶりとなるB級1組には、同世代のライバルから若き俊英まで、実力者がそろう。今後の展開では藤井聡太四冠も残留する可能性もあり、まさしく〝鬼のすみか〟だが、格の違いを見せつけて無双し、1期であっさり復帰する可能性は、十分にあると期待している。

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