ベテラン俳優・佐藤蛾次郎が幻の主演映画と半世紀ぶりに再会!「人生を謳歌」する近況も告白

北村 泰介 北村 泰介
幻の主演作「とめてくれるなおっ母さん」のポスターを掲げる佐藤利明氏(後方)と主演俳優の佐藤蛾次郎=都内
幻の主演作「とめてくれるなおっ母さん」のポスターを掲げる佐藤利明氏(後方)と主演俳優の佐藤蛾次郎=都内

 映画「男はつらいよ」シリーズなどで知られる俳優・佐藤蛾次郎は、コロナ禍の影響で、東京・銀座のパブ「蛾次ママ」を昨年大みそかに閉店したが、7か月の時を経て、幻の主演映画「とめてくれるなおっ母さん」(松竹、1969年公開)上映を機に行われた都内でのトークショーに登場した。蛾次郎は同作を踏まえて恩師・山田洋次監督との出会いや盟友・松田優作さんとの思い出などを振り返り、よろず~ニュースの取材に対しては、新たなパートナーの存在が支えになっている近況を明かした。

 同作は、松竹映画100周年を記念し、大半が未DVD化という貴重な作品を集めた「蔵出し!松竹レアもの祭」(31日まで開催中、東京・ラピュタ阿佐ケ谷)の1本として上映された。公開後、ビデオ化されることもなく、劇場での再上映記録も残っていないという幻の作品。ニュープリントフィルムでのスクリーン上映とトークという画期的な企画で、チケットは早々に完売となった。

 トレードマークのキャップに「野良犬」の3文字が躍る赤いTシャツ姿の蛾次郎。聞き手を務めた娯楽映画研究家・佐藤利明氏は「何年か前に、蛾次郎さんのお店から電話でこの作品を見たいと伝えられ、『いつか必ずなんとかします!』とお返事した」と企画の原点を明かした。

 田向正建監督は今作のみで脚本家に専念し、「武田信玄」などNHK大河ドラマを3本手掛けた。タイトルは、68年の東大・駒場祭ポスターに由来。当時在学中だった後の作家・橋本治さんによるコピー「とめてくれるな おっかさん 背中のいちょうが泣いている」だ。喜劇というよりも、学生運動やベトナム戦争などの時代背景も織り込まれたビターな作風だった。蛾次郎は、大野しげひさ、大橋壮多と組んだチンピラ役で、唯一、壮絶な最期を遂げることで強い印象を残す。この3人は公開当時「ちょこちょいトリオ」と命名されており、蛾次郎は「その名前は(共演した)柳家金語楼さんがつけた」と証言した。

 トークでは他の出演作にも言及した。準主役級に抜てきされた「吹けば飛ぶよな男だが」(68年)では、山田監督との面接に2時間遅刻した上、「どんな役がやりたい?」と問う監督に対して、くわえタバコで「不良!」とだけ返したエピソードを披露。「あばよダチ公」(74年)などで共演した松田さんについて「優作とはよく飲んだり、ハワイに行ったりした。店で『おい、蛾次郎』と絡んでくる客に、優作は『蛾次郎さんって言い直せ』って。あいつは先輩を立てるから」と振り返った。

 後日、改めて蛾次郎に話を聞いた。幻の主演作には「公開当時に見て以来、50年ぶりくらいかな。今、見ても、なかなかいい映画だし、『とめてくれるなおっ母さん』ってフレーズがいいね。当時、はやったんだよ」と懐かしんだ。

 閉店によって夜の時間を長く感じるかと聞くと、蛾次郎は「そんなことないですよ。今は、昔から知っている彼女の家にいることが多いかな。俺が行くとメシを作ってくれたりね。やっぱり、女性と一緒にいないとつまらない。男だもん。彼女と過ごす時間が何より楽しい。ワクチン接種も2回して、元気にやってます。人生を謳歌(おうか)してますよ」と近況を明かした。

 8月で77歳の喜寿を迎える。独り身となった高齢男性にとって、充実した日々があることは何よりだと感じた。

 最後に気になることがあった。「蛾次ママ」の名物で、渥美清さんも愛した蛾次郎オリジナル「寅さんカレー」の行方だ。焼酎に浸けた高麗人参、タツノオトシゴ、クコの実、ウコンなどの薬膳エキスを入れて寸胴鍋で煮込み、2-3か月ほど冷凍庫で熟成させた逸品。蛾次郎は「レシピは頭の中にある。たくさん作るのがいいから、家では作らないけど、今後、イベントなどでお声がけいただいたら、寅さんカレー、作りますよ」と期待に応えた。

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