幻の映画「ミスターどん兵衛」を探して 再上映やソフト化ない理由、唯一放送したTV局は?|よろず〜ニュース

幻の映画「ミスターどん兵衛」を探して 再上映やソフト化ない理由、唯一放送したTV局は?

北村 泰介 北村 泰介

 星野源が出演する「日清のどん兵衛」CМが話題になったが、発売開始の1976年から90年まで務めた初代キャラクターといえば俳優の山城新伍さんと川谷拓三さんのコンビ。さらに、商品名をタイトルとし、山城さんが企画、制作、脚本、監督、主演の5役で、川谷さんも共演した「ミスターどん兵衛」という映画があったことをご存じだろうか。41年前に劇場公開されたきり、再上映やソフト化もされないまま都市伝説化した「幻の映画」の行方を追った。

 「ミスターどん兵衛」公開は80年4月。当時のプレスシートによると、映画業界の内幕を描いた内容で、実在する大物プロデューサーや巨匠監督らもパロディ化。山城さんは「テレビCМは15秒、30秒のワクの中に、どんどんアイデアを入れて作っている。この方式でやれば本篇(※映画)だってイケルんやないかと挑んだのが、この『ミスターどん兵衛』なのだ」と、CМ撮影のノウハウを映画に活用したと記している。

 そこで、「協力」とクレジットされた日清食品に問い合わせると、同社の担当者は「社史を含む過去の資料を確認いたしましたが、この映画に関する記録は、当社には残っておりませんでした」と回答。映画は山城さん主導で動いていたと推測される。

 キャストは、主役の映画監督役に山城さん、助監督役に川谷さん。さらに、盟友の梅宮辰夫さんをはじめ、加賀まりこ、泉ピン子、和田アキ子、中尾ミエ、由利徹さんらが名を連ね、音楽監督は五木ひろし…という豪華な布陣だ。

 「美術監督」役で出演した佐藤蛾次郎は「山城さんの車に乗せてもろて、都内のロケ現場に行ったのを覚えてます。同じ関西出身やから、車中では関西弁で映画から下ネタまで話が弾んで楽しかった」と79年秋の撮影を懐かしみ、「おもろい映画でしたよ」と証言する。

 東映の「不良番長」シリーズなどの監督で、山城さんの依頼で脚本に加わった内藤誠さんは「(2009年に)新伍ちゃんが亡くなり、梅宮さんらが偲ぶ会をやった時、僕は『ミスターどん兵衛』を上映してパーティーやろうと言ったんだけど実現しなかった。新伍ちゃんが生きている内にDVDにしておけば…」と語る。同氏は「東映にフィルムがある」というが、実際はどうなのだろう。

 東映宣伝部の担当者は当サイトの取材に「フィルムを確認したところ、在庫は既にジャンク済みであり、過去の出庫履歴も確認できませんでしたが、原版はまだ東映にあるそうです」と説明。廃棄理由については「当時の配給契約を確認したところ、7か月間の期間限定での受託配給だったからだと思われます。自分の会社で作って、興行を限られた期間だけ請け負ってもらう方式です。ちなみに『有限会社どん兵衛プロダクション』の100%出資作品だそうです」と補足した。

 原版があればソフト化や放送、配信の可能性はあるが、それも難しい状況のようだ。担当者は「東映が原版を持っていても、製作費も負担しておりませんし、受託配給の側なので権利はない。その権利元も存在していませんし」と付け加えた。

 ただ、テレビでは1度だけ放送されていた。山城さんが79年から02年まで解説者を務めたサンテレビの「火曜洋画劇場」だ。同局に確認すると、82年1月5日の午後9時5分から2時間枠で放送された記録が「番組確定票」に残っていた。解説者本人の初監督作として例外的にオンエアされたようだ。

 放送対象地域である兵庫県在住だった映画監督の藤田容介さんは「テレビで2、3分だけ断片を見た記憶はあるので、たぶんその時の放送だと思います。翌月に大学受験を控えている時に『ミスターどん兵衛』に2時間近くを割くことはありえなかった」と振り返る。

 藤田さんは「当時、『ケンタッキー・フライド・ムービー』や『ミスター・ブー』の影響で、日本でもナンセンス・コメディが乱発されていました。ぜんぶ失敗していたけれど…」と時代背景を説明。一方で「40年を経た今となっては『ミスターどん兵衛』も懐かしく、ちょっと見てみたい気もします。あと、『ピーマン80』とか『トラブルマン笑うと殺すゾ』も見たい」と、前年公開の邦画で同様に〝お蔵入り〟状態となっている作品名も挙げた。

 開館107年となる福島県本宮市の「本宮映画劇場」は今春、保管している「ミスターどん兵衛」ポスターの画像をSNSで発信。「場末のシネマパラダイス 本宮映画劇場」(筑摩書房刊、7月1日頃に店頭発売予定)の著者で、同劇場「三代目修行中」の田村優子さんは「子供の頃から見ていた『どん兵衛』のコマーシャル。その映画があったことに驚きました。キャストも豪華で、これは見たい!と思いました。紛れもなく、この映画が存在していたことがポスターから生々しく伝わってきます」という。

 「ミスターどん兵衛」を探して、東京から兵庫を経て福島に至る40年分の旅もゴールが見えた。あとは「脳内上映」してみるか。

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