内部を石でしっかり固めた「神変窟」の奥には役行者の像が鎮座している。また、近くの岩場斜面には、役行者の母・刀良女(とらめ)の死と関係があるとされているカエルを祭ったと思われるお堂がある。では、なぜこの場所に「神変窟」が存在しているのだろうか。渓谷の出口にあたる場所に真言宗智山派の「満願寺・等々力不動」があり、大日如来の化身である「不動明王」が本尊として祭られている。開創は平安時代末期とされるが、当初はこの本尊の不動明王を刻んだのが、役行者とされているからだろう。
実際、この場所に足を踏み入れると空気感が変わる。「神変窟」で手を合わせて「不動明王」に参り、境内のベンチに座って空を眺めていると、心が研ぎ澄まされていく気がした。701年に没したと伝わる役行者が、1320年たった今の「鬼」「呪術」ブームをどう思うのだろうか。なにか妙な気分である。