『鬼滅の刃』、『呪術廻戦』ブームが止まるところを知らない。ところで、みなさんは「鬼」や「呪術」を信じるだろうか。すべては人の心の内にあるとは思うが、私は信じている。
「鬼」や「呪術」を打ち払うためには、自分の心の内を見つめることは必要だろう。ということで、東京23区内唯一の天然渓谷である等々力渓谷にいってきた。等々力は世田谷区内にある高級住宅地で、その中に約1キロにおよぶ渓谷があるのは昔から不思議だった。 別に3度目の緊急事態宣言が出される直前に、マイナスイオンを浴びるためではない。「鬼」や「呪術」とは切り離すことができない人間とゆかりがある場所があるからだ。
その人物は「神変大菩薩(だいぼさつ)」と諡(おくりな)された、役行者、役優婆塞(うばそく)、役の小角ともいわれる修験道の開祖のことである。修験道とは日本独自の山岳信仰で、時代劇などに登場する山伏の姿を想像してもらえればいいだろう。飛鳥時代に生きたその人物を祭る洞窟「神変窟」が、なんと等々力渓谷には存在している。
舒明天皇6年(634年)生まれと伝わる役行者は、孔雀明王の呪法を学んだとされる実在の人物である。平安時代初期に編さんされた、全40巻からなる勅撰(ちょくせん)史書『続日本紀(しょくにほんぎ)』には、あやしい言葉や雰囲気で人を惑わした罪で伊豆大島に流されたと載っている。その中で「小角能使役鬼神」とあり、まきを採らせたり、水くみをさせ、従わなければ、呪縛したとの記述がある。また、平安時代初期に書かれた、現存最古の仏教説話集「日本国現法善悪霊異記」(日本霊異記)には、流刑先の伊豆大島から毎晩海上を歩いて富士山に登って修行し、仙人になり空を飛んだという伝説が残っている。江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の『北斎漫画』には、前鬼、後鬼を従えた、頭巾をかぶった役の小角(役行者)の絵が残っている。