今から20年ほど前、まだボクが駆け出しのパズル作家だった頃の話です。電車でウトウトしてて目をさますと、隣りに座ったおじさんが、右手に鉛筆、左手に細かく折りたたんだ新聞を持っていました。そう、彼はパズルを解いていたのです。
しかも、なんとそれは、ボクが数日前に作って新聞社に渡したナンバープレイスだったのです。驚きました。自分が売れっ子作家であることはそれなりに自覚はしていました。でもそれを初めて肌感覚で思い知ることができたのです。感動しました。
思わず、「それボクが作ったんですよっ!」と話しかけようと思いました。けど、そう言われたところで、「はあ、それはどうも…」となるのがオチ。自重しました。けど、もしも相手が若い女の子であったなら、名乗り出るだけではすまずに、手とり足とり、解くのをアシストしちゃったかもしれません。事件にならずによかったです(笑)。
それはさておき、おじさん、なかなか苦戦しているようす。横目でチラッと見ると、5が入るべきマスに8と書いてある。そして、他のマスに数字を書き入れては、バッテンをして、どんどんマスがせまくなっていってる。消しゴムを持ってないからです。これじゃあ一生解けません。
紙面を鉛筆で叩いてはイライラしてる。軽く舌打ちまでしてる。このままじゃ、凡作だと判断されて、作ったボクのせいになる。それは作者としてのコケンにかかわる。「ここが8じゃなくて5だからですよっ」とノドまで出かかったところで、電車が停まり、おじさんは降りていきました。
大きなお世話をせずによかったかな…。そのまま駅のゴミ箱にポイ捨てなどせず、家に帰って間違いに気づき、無事に完成させてくれるといいな。せっかく作った問題ですもん。ムダにならないことを祈りました。パズル名人の若き日の懐かしい思い出でありました。