亡くなった父の遺品整理をしていたAさんは、書斎の引き出しから「自筆証書遺言」と書かれた封筒を発見した。これを見て「相続の手続きもスムーズに進むはずだ」と安堵し、弁護士の立ち合いのもと中身を確認する。
しかし、そこに書かれていた文字があまりにも達筆で、1文字すら判読することができなかった。このように達筆すぎて読めない遺言書は、法的に無効になってしまうのだろうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞いた。
ー文字が達筆すぎて読めない遺言書は、法的に無効になりますか?
形式を満たしていても、「何を誰に譲るのか」という内容を客観的に特定できなければ、法的効力が認められず無効となるリスクがあります。遺言書は亡くなった方の意思をよりどころとして権利変動が生じる法的文書だからです。
ただし、一部の文字が崩れている程度であれば、筆跡鑑定や前後の文脈などを総合的に考慮し、可能な限り遺言者の意思を尊重して解読を進める手続きが取られることもあります。「遺言解釈にあたっては、遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであ」ると示した裁判例もあります(最判平成5年1月19日)。
ー遺族が「こう書いてあるはずだ」と推測して相続を進めても大丈夫ですか?
避けた方が無難です。実務的には遺産分割協議によりすすめることになると考えます。親族間で「自分都合に解読したのでは」と疑われ、深刻なトラブルへ発展しかねません。また、銀行や法務局でも内容が不鮮明な遺言書での手続きは原則拒否されます。
読めない遺言書を見つけた際は、遺族の希望的観測で判断せず、相続に詳しい弁護士などに相談して、実務的に適切な対応を図る必要があります。
ーどうしても解読できない場合、家庭裁判所が判読してくれるのでしょうか?
家庭裁判所が遺言書の内容を解読したり、意味を確定させてくれたりすることはありません。自筆証書遺言を発見した際におこなう家庭裁判所の「検認」は、あくまで遺言書の存在や当時の状態を記録し、偽造や変造を防ぐための証拠保全の手続きにすぎないからです。
したがって検認の際も解読文は発行されません。決着がつかない場合は、最終的に遺言無効確認の訴訟で争うことになります。
ー達筆な親に勧めるべき、確実に読める遺言書の遺し方や制度はありますか?
公証人が作成する「公正証書遺言」や、「秘密証書遺言」での作成が有効と考えますが、「公正証書遺言」での対応がより一般的かと考えます。
「秘密証書遺言」は、自書の必要がなく、PCでの作成も可能な一方で、第三者による筆記が有効とされている点で遺言者の意思が本当に反映されているか疑義が残る場合もあり、こういった懸念を避けるためか年間の作成件数は100件程度にとどまります。この点「公正証書遺言」は、公証人が聞き取った内容を正確な文章として作成・保管するため読めないリスクを100%防ぎ、遺言者の意思を反映した証拠性も高いものとされています。
確実に意思を届けてもらうためにも生前にしっかりとした対策を促しましょう。
◆松尾武将(まつお・たけまさ) 行政書士
長崎県諫早市出身。前職の信託銀行時代に担当した1000件以上の遺言・相続手続き、ならびに3000件以上の相談の経験を活かし大阪府茨木市にて開業。北摂パートナーズ行政書士事務所を2022年に開所し、遺言・相続手続きのスペシャリストとして活動中。ペットの相続問題や後進の指導にも力を入れている。