今は亡き夫の義母と同居をするAさんは、義母の介護を長年のあいだ一手に引き受けていた。ついに義母を看取り四十九日を過ぎた頃、これまでまったくAさんを手助けせず離れて暮らしていた義兄から「母さんの預金は実子である俺が全て相続する。今までありがとう」と告げられる。
10年間に及ぶ過酷な介護で自分の時間を犠牲にしてきたAさんは、「私の苦労は1円の価値もなかったの?」と深い絶望に襲われる。血の繋がらない「嫁」は、介護の報いを受け取ることはできないのだろうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞いた。
ーそもそも、義理の親を介護した「嫁」に、遺産の相続権はあるのでしょうか?
残念ながら、現行法でも「嫁」に相続権はありません。
民法で定められた法定相続人は、配偶者や子どもといった一定範囲の血族に限られます。たとえ実子以上に尽くしたとしても、「嫁」は法定相続人にはあたらず、何もしなかった実子の相続権が優先されるのが相続の原則です。
かつては、妻が夫の両親の介護をしていた場合、妻を相続人である夫の履行補助者とし、夫の寄与分として扱うことにより救済を図るなどされていました。この場合、夫が先に死んでいた場合には妻の救済が図れないなどの問題が指摘されていました。
2019年の民法改正により、相続人以外の親族(「嫁」など)が介護に尽くした場合、相続人に対して金銭を請求できる「特別寄与料(とくべつきよりょう)」という制度が創設されました。これにより、直接的な相続人ではなくても、一定の「金銭の支払」を求めることができる道が開かれました。
ー「特別寄与料」を請求するためには、どのような条件が必要ですか?
「無償で労務を提供」し、「亡くなった方の財産の維持又は増加に寄与」したことが、「特別の寄与」といえるかということが条件になります。
単に「たまに様子を見に行っていた」程度では認められず、仕事や私生活を犠牲にして、本来ならプロのヘルパーを雇わなければならなかったレベルの介護を担っていたことが求められます。
また、請求できる期限が「相続の開始および相続人を知った時から6カ月以内(または相続開始から1年以内)」であることに注意が必要です。
ー特別寄与料を請求するための証拠として有効なものは何ですか?
介護の事実を客観的に証明する資料が不可欠です。具体的には、介護日記・記録:いつ、どのようなケア(排泄介助、入浴介助、病院への送迎など)を何時間行ったかの詳細なメモ、Aさんが立て替えていた場合の証明となる医療・介護費用の領収書、被相続人の状態が重かったことを示す要介護度の判定書類、「介護は任せた」というメールやLINEなど役割をもっぱら担っていた証拠の4点です。
これらがあれば、親族から「自分もやっていた」と反論された際の有効な反証となりうるでしょう。
ー親族間のドロドロした争いを防ぐため、親が存命のうちになすべきことは?
親が「遺言書」を書くことは1つの方法です。
「嫁」からすると、自らの労務提供が正当に評価されていないと感じることが、不満の大きな原因と考えられます。遺言書の中で、「嫁」に対して「遺贈(いぞう)」として財産の一部を譲る旨を明記してもらえば、一定程度溜飲はさがるのではないでしょうか。その際、なぜ「嫁」に財産を遺すのかという理由(付言事項)を親の言葉で添えると、残された親族も納得しやすくなると考えます。
◆松尾武将(まつお・たけまさ) 行政書士
長崎県諫早市出身。前職の信託銀行時代に担当した1000件以上の遺言・相続手続き、ならびに3000件以上の相談の経験を活かし大阪府茨木市にて開業。北摂パートナーズ行政書士事務所を2022年に開所し、遺言・相続手続きのスペシャリストとして活動中。ペットの相続問題や後進の指導にも力を入れている。