雨の日、お気に入りの服を着て歩道を歩いていたAさん。すると、後ろからスピードを出して走ってきた自転車が、水たまりの泥水を容赦なく跳ね上げて走り去った。
服は泥だらけになってしまったのに、自転車の運転者は謝罪どころか振り返りもせず姿を消した。せっかくの外出を台無しにされたAさんは、怒りを露わにして「これって罪にならないの!?」と呟くのだった。
こうした「自転車による泥はね被害」は、単なるマナー違反というだけで、罪にならないのだろうか。法的な違法性や、クリーニング代などの損害賠償を請求できる条件について、まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー自転車で歩行者に泥水をかける行為は、法的に何らかの罪になりますか?
「道路交通法違反」になります。道路交通法第71条第1号では、自動車だけでなく自転車(軽車両)を含むすべての車両に対し、「ぬかるみや水たまりを通行するときは、泥よけ器を付け、又は徐行する等して、泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること」と定めています(泥はね運転の禁止)。
これに違反した場合、5万円以下の罰金(道交法120条)の対象となるほか、反則金制度(青切符)の適用対象にもなります。
ー泥水で汚された服の「クリーニング代」を相手に請求することは可能ですか?
不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償としてクリーニング代を全額請求できます。
もしクリーニングでも落ちないほどのシミになったり、生地が傷んで着用不能になったりした場合は、その洋服の「時価額(購入価格から経年劣化分を引いた金額)」を請求することも可能です。ただし、精神的苦痛に対する「慰謝料」まで認められるケースは、物の損壊事故では原則として稀です。
ー「わざとじゃない」「水たまりが見えなかった」という言い訳は通用しますか?
言い訳にはなりません。民法上の損害賠償責任も、道路交通法上の違反も、「故意(わざと)」だけでなく「過失(うっかり・不注意)」があれば成立します。
「雨が降っている」「路面が濡れている」という状況であれば、水たまりが存在することや泥はねが起きる可能性は十分に予見できます。スピードを落とさずに走行したこと自体に過失があると判断されるため、「見えなかった」「悪気はなかった」という主張で責任を免れることはできません。
ー走り去った相手を特定するにはどうすればよいでしょうか?
まずは、被害直後の服の状態や現場の水たまり、正確な場所などをスマートフォンで撮影し、客観的な証拠として残してください。それと並行して、自転車の色や種類、運転者の性別や服装といった特徴をメモに書き留めます。その上で、速やかに警察へ被害の届出を行いましょう。
また、自転車利用者は通勤や通学のために同じルートを同じ時間帯に走っていることが多いものです。情報を集めるために、後日、同時刻に同じ場所に足を運ぶのも手です。まずは可能な限りの情報収集が、解決への第一歩となります。
●北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。