ある日、転職した知人が会社員のAさんに「有給を50日分、一気に使い切って世界1周してきた」と言った。Aさんはこの言葉が羨ましく感じると同時に、とても信じることができなかった。理由は、一般的に有給休暇の時効は2年であり、1年間の最大付与が20日であることを考えれば、上限は40日のはずだからだ。
実際に、有給と欠勤を組み合わせて長期クルーズ旅行に出かけ、後に処分を受けた職員のニュースが話題になったこともある。ではAさんの知人は、どのような方法で50日分の有給休暇を使用したのだろうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いた。
ー原則として、有給休暇の「最大保有数」は何日と決まっているのでしょうか?
労働基準法の原則で言えば、有給休暇の最大保有数は40日です。
内訳としては、その年に新しく付与される最大20日と、前年から繰り越された20日の合計です。有給休暇の時効は2年間と定められているため、それ以上古いものは順次消滅していくことになります。
ただし、注意が必要なのは、労働基準法はあくまで最低限の基準を定めたものであるという点です。会社が就業規則などで初年度から11日与えるとか年間22日与えるといった形で、法律を上回る条件を設定することは自由であり、むしろ社員にとっては良いこととして認められています。
ーなぜ50日という大量の有給消化が可能になるケースがあるのでしょうか?
要因はいくつか考えられますが、1つは先ほど申し上げた通り、会社が独自に法律以上の付与日数を設定している場合です。例えば年間の付与を25日に設定し、2年間の時効ルールであれば、最大50日の保有が可能になります。
もう1つは特別休暇の存在です。会社によっては、リフレッシュ休暇や慶弔休暇、あるいは永年勤続の特別休暇を設けています。これらは法定の有給休暇とは別の立て付けであるため、時効の期間を3ヶ月や1年と自由に設定できます。
これら独自の休暇と有給休暇を組み合わせることで、合計して50日や60日といった長期間の休みを作ることは実務上可能です。
ー上限を上回ってしまい、消滅しそうな有給休暇はどう扱われるのですか?
残念ながら、上限を超えて時効を迎えた有給休暇はそのまま消滅します。
よく「消える分を買い取ってほしい」という要望を聞きますが、有給休暇の買い取りは原則として禁止されています。理由は、有給休暇が「労働者の心身の休息」を目的としているからです。お金を払うことで休ませないことは、法律の趣旨に反するとされています。ただし、退職時に限っては、消化しきれない分を会社が買い取ることは例外的に認められています。
日本人は昔から「自分の身も心も捧げること」で会社に尽くそうとする傾向がありますが、有給は労働者の正当な権利です。会社側も、有給休暇を取ることを前提とした仕事の回し方を構築すべきですし、働く側も消滅させてしまう前に、計画的に権利を行使することを忘れないでください。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ) 社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市から労使の共存共栄を目指す職場づくりを支援。人材育成・定着のための就業規則整備や評価制度構築、障害者雇用、同一労働同一賃金への対応といった実務支援は、常に現場の視点に立つ。ネットニュース監修や講演にて情報発信を行う一方で、SNSでは「#ラーメン社労士」としても活動し、親しみやすい人柄で信頼を得ている。