社会人生活のスタートという門出に、親から贈られた「積立保険の満期」というサプライズ。Aさんにとって、300万円という大金は新車購入の夢を現実にする最高のプレゼントになるはずだった。
しかし喜びも束の間、ふと目にした「贈与税」という言葉が彼女の不安を掻き立てる。せっかくの就職祝いが、想定外の税金で目減りしてしまうのは避けられないのだろうか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞いた。
ー保険の税金は、保険料負担者が誰かによって決まるのですか?
その通りです。税務上、最も重視されるのは「誰が実際に保険料を負担したか」という実態です。保険の契約形態にかかわらず、保険料を支払った人と、保険金を受け取る人が異なる場合、そのお金の移動は基本的に「贈与」とみなされます。
Aさんのように、親が保険料を全額支払い、子が満期金を受け取るケースでは、親から子へ300万円という資産が譲渡されたと判断されるため、所得税ではなく贈与税の対象となるのです。
名義が本人であっても、資金の出所が親であれば贈与税が課されるという点がポイントです。
ー300万円の満期金を受け取った場合、贈与税はいくらくらいかかりますか?
贈与税には年間110万円の基礎控除があります。そのため、300万円から110万円を差し引いた190万円が課税対象となります。
18歳以上の子が直系尊属(親や祖父母)から贈与を受ける場合は「特例贈与財産」の税率が適用されます。基礎控除後の課税価格200万円以下の税率は10%で控除額は0円ですので、計算式は「190万円 × 10% - 0円= 19万円」となります。
つまり、Aさんの手元に残るのは、税金分を差し引いた281万円ということになります。
ー贈与税を回避するために、満期直前に契約者や受取人を変更することは有効ですか?
残念ながら、満期直前の名義変更で贈与税を回避することは困難です。税務当局は「名義」よりも「保険料の拠出実態」を重視するため、直前に名義を親に変えたとしても、過去の支払い実績から「実質的な受取人は子である」、あるいは「変更そのものが贈与にあたる」と判断される可能性は否定できません。
また、不自然な名義変更は、税務調査において厳しくチェックされる対象となります。小手先の対策でリスクを冒すよりも、贈与税のルールを正しく理解し、期限内に申告を行うことが、結果として最も安全で賢い選択と言えるでしょう。
◆正木由紀(まさき・ゆき) 税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。