転職活動中の40代男性は、あるベンチャー企業の求人に心を奪われた。理由は「推し活休暇」「失恋休暇」「家族の誕生日休暇」など、ユニークな制度が並んでいたからだ。これまで有給休暇の申請理由に悩み、「私用」と書くことにすら罪悪感を覚えてきた世代にとって、プライベートを推奨する姿勢は輝いて見える。
しかし、その輝きの裏には企業側の冷静な計算と、運用上の落とし穴が潜んでいる可能性がある。ユニークな休暇制度について、社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いた。
ーユニークな休暇制度にはどのようなものがありますか?
「推し活休暇」や「失恋休暇」といった話題性の高いもの以外にも、実務的には多様な制度があります。例えば、従業員のスキルアップを支援する「教育訓練休暇」は、要件を満たせば国から助成金が出るため導入する企業もあります。また、地域貢献を目的とした「ボランティア休暇」や、公的な「裁判員休暇」なども一般的です。
最近特に注目されているのは「不妊治療休暇」です。治療には頻繁かつ突発的な通院が必要となるため、通常の年次有給休暇とは別枠で、治療専用の休みを付与するケースが増えています。
他にも、勤続年数に応じた「リフレッシュ休暇」や、子どもの誕生日に休める「家族休暇」などがありますが、これらは全て法定の有給休暇とは別に会社が独自に定める「特別休暇」という位置づけになります。
ー企業がこのような制度を導入する理由は何ですか?
狙いのひとつとして考えられるのは「採用活動におけるPR効果」です。現在、人手不足は深刻で、求人広告を出すだけでも年間数百万円のコストがかかることは珍しくありません。そこで、あえて「推し活休暇」のようなユニークでキャッチーな名称の制度を導入するのです。
珍しい制度を作れば、メディアが「面白い取り組みをする会社」として無料で取り上げてくれる可能性があります。これは非常に費用対効果の高い宣伝手法です。
もちろん「ワークライフバランスを重視する」という姿勢を示す目的もありますが、本来、有給休暇の取得に理由は不要です。そこをあえて、法定の年次有給休暇とは別の「特別休暇」枠を設け、具体的な名称を冠してアピールすること自体が、広報戦略の一環と言えるでしょう。
ー導入・運用する上での課題や注意点はありますか?
導入時に最も注意すべきなのは、その休暇が「有給(給料が出る)」なのか「無給(給料は出ない)」なのか、そして「人事評価にどう影響するか」という点です。
企業独自の特別休暇は「無給」で設定されることも少なくありません。ここで重要なのが「欠勤」との違いです。「欠勤」は給与が引かれる上に、賞与査定や昇給評価でマイナスになります。一方、制度としての「無給休暇」であれば、給与控除はあっても、評価上は「出勤」とみなして不利益に扱わないのが適切な運用です。
しかし、話題作り先行で導入され、この定義が曖昧なままだとトラブルになります。「制度を使って休んだのにボーナスを減らされた」といった事態を防ぐため、就業規則上の扱いを労使双方で確認しておく必要があります。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市から労使の共存共栄を目指す職場づくりを支援。人材育成・定着のための就業規則整備や評価制度構築、障害者雇用、同一労働同一賃金への対応といった実務支援は、常に現場の視点に立つ。ネットニュース監修や講演にて情報発信を行う一方で、SNSでは「#ラーメン社労士」としても活動し、親しみやすい人柄で信頼を得ている。