冬のオフィスで、窓際の席から漏れる冷気に震える部下と、その傍らで「頭を冷やして効率を上げる」と豪語する上司。こうした光景は、かつての日本企業では「我慢」の一言で片付けられてきた。しかし現代において、個人の快適さを無視し特定の誰かに肉体的な苦痛を強いる行為は、単なる好みの違いでは済まされない。
「エアハラ(エアコン・ハラスメント)」という言葉もささやかれるなか、冬の職場の空調や体調管理はどのような点に気をつけるべきだろうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いた。
ー寒さを我慢させるような空調管理は、法的に「パワハラ」と認定されますか。
はい、認定される可能性があります。例えば、上司が自分の権限を利用して、部下が「寒い」と訴えているのを取り合わず、自分の快適さだけを優先して設定温度を固定したり、頻繁に窓を開けたりする行為は、職権の濫用による「パワハラ」に近いと言えます。
単に「温度の好みが違う」というレベルを超え、相手の健康を害するような環境を強制することは、ハラスメントの定義に抵触する恐れが十分にあります。
ー会社には、従業員が快適に働ける環境を整える義務がありますか。
もちろんです。会社には従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する法律上の義務があります。労働安全衛生法の「事務所衛生基準規則」では、室温を18度以上28度以下、湿度は40%以上70%以下に保つよう努めるべきと定められています。
もし部下がダウンジャケットやマフラーを着用しなければ仕事ができないほど凍えているのであれば、それは会社が適切な労働環境を提供できていないことになり、安全配慮義務違反を問われかねません。
ーインフルエンザなどの感染症対策による換気はどのように判断されますか
換気は重要ですが、やり方が問題です。仕事中に窓を開けっぱなしにするのではなく、休憩時間に行う、あるいは5分程度の短時間に留めるといった工夫が必要です。
窓を開けることで誰かが極端な寒さにさらされるなら、空気清浄機や加湿器を導入するなど、別の対策を検討すべきです。特に冬場は湿度が40%を切ると感染リスクも高まるため、湿度管理にも目を向けることが、結果としてハラスメント防止と感染症対策の両立につながります。
ー従業員は、空調や体調管理についてどのように改善を求めると効果的ですか。
感情的な対立を避け、まずは人事や総務といったバックオフィス部門に相談するのが効果的です。個人間で「暑い・寒い」を言い合うと角が立ちますが、会社として「設定温度を何度にする」「サーキュレーターを設置して空気を循環させる」といった客観的なルール作りを提案してもらうのです。
また、単なる「わがまま」ではなく、「寒さで作業効率が落ちている」「体調を崩しそうである」と、業務への支障を具体的に伝えることで、会社側も対策の必要性を強く認識するようになるでしょう。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市から労使の共存共栄を目指す職場づくりを支援。人材育成・定着のための就業規則整備や評価制度構築、障害者雇用、同一労働同一賃金への対応といった実務支援は、常に現場の視点に立つ。ネットニュース監修や講演にて情報発信を行う一方で、SNSでは「#ラーメン社労士」としても活動し、親しみやすい人柄で信頼を得ている。