趣味で育てていた盆栽が、実は数百万の価値を持つ芸術品であったという話が存在している。遺族にとってはただの植木に見えても、専門家が見れば高額な値が付くことはあり得るのだ。故人の大切な趣味であった盆栽が、相続の際に思わぬ火種とならないよう、相続税に関する知識を深めておくことは現代において非常に重要といえる。遺された盆栽の相続について、正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞いた。
ー盆栽のような植物も、法律上「相続財産」として申告する必要があるのですか
盆栽も法律上「相続財産」として申告する必要があります。国税庁の指針においても、庭の植木や庭石なども含めて「庭園設備」として評価の対象となることが示されています。
趣味で育てられた盆栽であっても、その価値が客観的に認められるものであれば、それは紛れもない相続財産なのです。ご遺族がその価値を知らなかったとしても、税務署の調査で指摘される可能性は十分にありますので、注意が必要です。
ー盆栽の「価値(評価額)」は、どのように決められるのですか
相続財産の評価は、原則として相続開始時(被相続人が亡くなった日)の「時価」で行われます。しかし、盆栽のように一点一点の状態が異なり、明確な市場価格が存在しないものについては、その評価方法が問題となります。
最も一般的で信頼性の高い方法は、盆栽の専門家や美術品鑑定士といった「精通者」に鑑定を依頼し、その価格を評価額とすることです。このほか、類似の盆栽の売買実例価額を参考にする方法もあります。いずれにせよ、ご遺族の主観的な判断ではなく、客観的な根拠に基づいた評価額を算出することが、後の税務調査で問題を指摘されないためにも不可欠です。
ー価値を知らずに申告しなかった場合、どのようなペナルティがありますか
価値のある盆栽を相続財産として申告しなかった場合、税務調査でその事実が発覚すると、ペナルティとして「追徴課税」が課されることになります。
申告した税額が少なかった場合に課されられる「過少申告加算税」や、申告期限内に申告しなかった場合に課されられる「無申告加算税」が考えられます。また、悪質と判断された場合には「重加算税」や、法定納期限の翌日から、完納する日までの日数に応じて、利息に相当する「延滞税」も課せられる可能性があります。
ー手入れを怠って枯らしてしまった場合、相続財産の評価はどうなりますか
相続税の評価額は、あくまで「被相続人が亡くなった日」の価値で決まるため、相続発生後にご遺族が手入れを怠り、価値ある盆栽を枯らしてしまったとしても、相続税の評価額が下がることはありません。
相続開始時に1000万円の価値があった盆栽が、申告前に枯れてしまい価値がゼロになったとしても、相続税の計算上は1000万円の財産として扱われるのです。ご遺族は、もはや手元に存在しない財産の価値に対して、多額の相続税を支払わなければならないという事態に陥ってしまうのです。
このような悲劇を避けるためにも、相続が発生した際には、まず財産の全体像を把握することが大切です。そして、価値が変動する可能性のあるもの、特に盆栽のように専門的な管理が必要な財産については、速やかに専門家に相談し、その保全と評価を行うことが極めて重要になります。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。