発売3カ月で30万本!誰でもクリアできる「親切設計」がヒットの鍵 ゲーム「都市伝説解体センター」開発陣に聞く

藤丸 紘生 藤丸 紘生
「都市伝説解体センター」キービジュアル ©Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES
「都市伝説解体センター」キービジュアル ©Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES

 「都市伝説解体センター」というゲームを知っているだろうか。神戸を拠点に活動する4人組ゲームクリエーターチーム「墓場文庫」が開発し、今年2月に集英社ゲームズから発売されたミステリーアドベンチャーで、累計販売本数は発売3カ月で30万本を突破。日本のインディーゲーム、とりわけアドベンチャーというジャンルにおいては異例の数字を記録している。よろず~ニュースではこのほど、「墓場文庫」のグラフィッカー兼デザイナーのハフハフ・おでーん氏、集英社ゲームズのシニアプロデューサー林真理(はやし・まこと)氏を直撃。同作で初めてミステリーアドベンチャーをプレイした“ゲーム初心者”の記者がヒットの裏側に迫った。

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 同作はネット上に飛び交う「都市伝説」をテーマにした連続ドラマ形式のゲーム。プレーヤーは「都市伝説解体センター」新人調査員の主人公・福来(ふくらい)あざみとして、都市伝説がらみの依頼を調査し、その背後にある謎を解き明かしていく。発売されてほどなく、SNSではクリアしたユーザーからの「絶対にクリアはできるから」「ネタバレ見ずにとりあえず一回最後までプレイしてみて」という投稿であふれた。おでーん氏はヒットの要因のひとつに「ユーザーさんの口コミ」を挙げて感謝。“詳細は言えないがとにかく結末を体験してほしい”という、漠然かつ力強い口コミが興味を誘い、人気に火を付けた。

 実際にプレイした記者も、ストーリーを根底から覆すラストに驚かされたわけだが、それ以外に気になるポイントがあった。ひとつは「ミステリーゲーム初心者に非常に優しい」ということだ。

 おでーん氏によれば、同作は「普段ゲームをプレイしない層」「ゲームに疲れてしまった層」をメインターゲットのひとつにしているという。その証拠に、ゲーム内の節目節目で謎を解き明かすパートがやってくるのだが、プレーヤーは三~四択、もしくは選択式の穴埋めを答える方式。さらに、誤った解答をしても特にペナルティーなく正解するまで何度も答えられる。ゲームオーバーもマルチエンディング(選択によって展開や結末が変わる方式)もない。つまり、普通にプレイしていけば必ずクリアできる。

 ある意味“過保護”とも言うべき親切設計が記者のようなライト層にはありがたい一方、一部のコア層から「やりがいがない」「退屈だ」というネガティブな評価につながる懸念もあった。実際に「簡単すぎる」という声も少なからずあったという。しかし、おでーん氏は「その10倍、20倍以上の『これくらいの難易度で助かりました』という声をいただいて」と明かす。

 幅広い世代からクリアできたという声が数多く届き「あの難易度にして良かったんだなと思っています」と手応えを実感。難易度だけでなく、ゲーム全体は全6話で構成され、各話1~2時間でクリアできるボリューム。少しずつでも進めていけば必ずクリアできるため、子育て世代から「空いた時間に片手間でできる」と感謝の声もあったという。

 おでーん氏は「僕たちが一番見せたいものは、結末なんです。そこに至るまでにやり直しをさせる(=ゲームオーバーの要素を仕組む)のはちょっと…と判断しました。途中でゲームオーバーになって、どこかのポイントからやり直すって、ユーザーによっては結構ストレスがかかるものなので」と話せば、林氏も「ゲームの最後までクリアしてほしい。ラストにたどり着く前にゲームをやめてしまうのは望んでいないことだった。いかにゴールを体験してもらうかということが軸だった」と補足。「簡単すぎる」と批判があるのは覚悟の上で、誰もがラストまで“離脱”しないような仕組みに注力した。

 そこまでしてどうしても見せたかったラスト。先述の通り「ネタバレ見ずにとりあえず一回最後までプレイしてみて」と口コミが広がるほど、衝撃度の高い展開を迎える。当然、SNSに感想を投稿する際にはネタバレに配慮するよう公式から注意喚起したり、発売からしばらくはゲーム実況で配信可能なパートに制限を設けたりしたが、もしそれが破られてネタバレが拡散したら…ここが記者が気になったポイントのもうひとつだ。

 当然、開発陣も懸念していたことだったが、ふたを開けてみると「ネットのマナーがものすごく良くて、ユーザーさんがかたくなにネタバレをしない。現時点でも目立ったネタバレはあまりなくて、批判的なコメントでもネタバレを避けて書いてくれています」(おでーん氏)、「最近プレイした人から『ネタバレにあわなくてよかった』という声もあって、みなさんの配慮のおかげで後からプレイする人も楽しめていることに感謝しています」(林氏)と予想以上の結果に驚いた。

 一方、現在はゲーム内の全シーンが配信可能になったため、YouTubeなどで容易にラストを見ることができるのもまた事実。先述の通り、マルチエンディング方式ではないため、何度プレイしても同じ結末を迎えるのだが、林氏によれば嬉しい誤算もあったという。「(動画を見て結末を知った上で)『自分でもプレイしてみよう』というユーザーも思ったより多い印象です。『ネタバレしても自分で体験してみたい』と思わせるものを作れたのかなと」。結末を知った上でプレイしたいという思考回路は「世代的なところ」とおでーん氏は推察する。「コスパ・タイパ世代と言われる人たちが『面白いもの』と分かった上で体験したいというのもあるのでは」。面白いか分からないものに時間を費やすのではなく、面白いと分かっているものを自分も体験する、という楽しみ方が同作のロングヒットを支えている。

 同作の開発には約3年を費やした。おでーん氏は「開発を通じて、集英社ゲームズさんと非常に良い関係を築けたと思っているので、引き続き一緒にゲームを作れたら」と話し、林氏も「関係性が深まることで、ゲームにも魅力がにじみ出ればいいなと思っています」と同調した。ミステリーアドベンチャーというジャンルの大きな可能性に期待しつつ、探求は続く。

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