「子宝」に恵まれない夫婦にとって、選択肢の一つとして、妻以外の女性に体外受精させた受精卵を移植する「代理出産」という方法がある。海外ではビジネス化した犯罪集団が摘発されるといった事件も報じられているが、家族を形成しているケースもあるという。ジャーナリストの深月ユリア氏が、3年前に海外で代理出産した子どもを育てる日本国内の50代夫婦に話を聞いた。
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厚生労働省が今年3月に発表したデータによると、日本では夫婦の22.7%が何らかの不妊治療を受けているという。体外受精で胚移植1回あたりの妊娠率は、2022年には34.2%と発表されているが、女性が40歳以上になると著しく低下する傾向にあり、長年の不妊治療を行っても、子どもを授かれない夫婦も多い。
「代理出産」が認められている国は米国(一部の州)、ロシア、ウクライナ、ジョージアの4か国のみ。一部の国でしか認可されていない理由として、代理母の心身の健康リスクや、代理出産がビジネス化されることで貧困層の女性が経済的に搾取されるケースも考えられる。
作家・オカルト研究家の山口敏太郎氏(58)と妻・てるみさん(55)は長年、不妊治療を行っていたが、子を授からず、ウクライナ人の代理母に出産してもらった。
てるみさんは「30代から体外受精を何度も行いました。当時は保健適用外でしたので、助成金が出ても1回の体外受精につき30万円ほどかかりました。医者には『体外受精はギャンブルだから、あらかじめ何回まで頑張るか決めた方がよい』と言われました。補助金も6回までしか出ないのですが、あきらめられず、 結局10回以上やりました。私は麻酔が合わない体質なので、採卵は無麻酔でやり、その度に激痛がありました。里親も申し込みましたが、夫婦ともに50代だとNGな団体が多く、夫が50代になると里親という選択肢も難しくなってしまった」と振り返った。
その後、てるみさんは5年前に卵巣癌になり卵巣を摘出。自身の出産がかなわなくなったことで、「4年前のクリスマスの時期に代理出産の道を決めました」という。
「代理出産のエージェントに依頼するには、なぜ子どもを生めないか証明が必要で、卵巣癌の治療中に主治医に証明書を書いてもらいました。日本の代理出産のエージェントからウクライナの代理母を勧められました。アメリカで、代理母が子どもを手放さないというケースが裁判になり、そのエージェントでは代理母にまた違う女性の卵子と夫の精子との受精卵を移植し、代理出産を行う、というシステムでした。ウクライナの代理母はシングルマザーで、『あなたに子どもが産めないなら私が産んであげる。でも私も子育てのお金が必要で対価が欲しい』という考え方でした。そして、(21年5月5 日)私の51歳の誕生日に代理母が妊娠判定されたのです」(てるみさん)
22年1月3日に生まれた男の子は「太郎」と名付けられた。ロシアがウクライナに侵攻する前月だった同月、てるみさんはウクライナにこの待望の〝息子〟を迎えに行った。もし出産が1か月遅れたら、出入国はもちろん、代理母の安全が危ぶまれたかもしれない。
てるみさんは「まさに奇跡の子です。血の繋がりなんて関係なく、私が育てるから私の子です。家族もそのように言ってくれます」と語る。敏太郎さんも「今は本当に幸せ。太郎を大学まで通わせる資金も用意していますし、『老後の介護に子どもが欲しいのか』という批判もありますが、断じてそんなことはありません」と明言した。
通常、代理出産の費用は安くとも日本円で数百万円かかり、これは語学力があって海外のエージェントと直接やり取りできる場合の金額だ。日本のエージェントを通す場合、さらに金額が膨れ上がり、庶民には手軽に支払える費用ではない。
敏太郎さんは「代理出産に対する批判はありますが、ウクライナの代理母はキリスト教の相互扶助の精神の元に快く引き受けてくれたのです。代理出産は日本の少子化・人口現象の解決口の一つであり、もっと日本に広まって欲しい。政府に補助金制度を設けるなど対策して欲しいですね」と自身の見解を語っていた。