神話というとどんなイメージを浮かべるだろう。昔話、古代天皇の物語、はたまた神社の由緒書のようなことかと曖昧に捉えている人も多いかもしれない。
神話には心を癒やし、ラッキーになるヒントが詰まっているそうだ。尼崎戎神社の女性宮司・太田垣亘世さんと、神話カタリストとして活動する武田光司さんの2人に日本神話の魅力や現代での意義について聞いた。
――神道・神社離れは進んでいると感じますか?
太田垣:進んでいると思いますが、私にとって神社離れはネガティブな表現ではないんです。昔は地域コミュニティの一部として、行かざるを得ない場所でした。今は、ポジティブな理由で訪れる人が増えています。
武田:以前は社会の交流の重要拠点だったのが、公民館ができることで神社に行く必要がなくなった側面もあるようです。ですが、神社側も、存続のために御朱印にこだわったり、女神の伝説や神様のエピソードで参拝してもらえるよう工夫が進んでいます。
――神話とはなにを描いた、どのような性質のものでしょうか?
太田垣:文化人類学、哲学、心理学、自然科学などから、さまざまアプローチがありますが、シンプルにいうと国の成り立ちを説明する歴史書です。神々が登場する物語として、国がどのように創られてきたかが描かれています。
武田:各民族の歴史であり、子孫へのメッセージでしょう。子々孫々に伝えられた民族の信条、教訓、約束のようなものだと思います。
――神話は、なぜ日本人にフィットするのでしょうか
太田垣:日本の風土の中で起きた様々なことが神話を創り上げたからです。縄文時代、弥生時代から、日本人のニーズに合わせて長きに渡り柔軟に変化してきました。だから日本人にしっくりくるのだと思います。
武田:欧米諸国は、古くは石の家で自然と敵対してきました。山登りの成功を征服と表現することもあります。一方で、日本人の多くは木の家で、自然と共存してきました。また山岳が多く恵みを享受してきた日本人は、感謝して登らせていただく感覚が強いです。このような感覚のルーツ……日本人としての当たり前が、神話や古事記に多く示されています。
――多様な生き方が進む中で寄りかかれるルーツとして神話を選ぶのはアリですか?
太田垣:良いと思います。人はある年齢以降誰しも「自分は何者だろう」と悩む瞬間が来ます。そんな時に、神話に重心をおくと、安心感につながります。でも宙ぶらりんのままで良いんです。日本人も神様もかねてより、穏やかで多様で寛容です。あなたが悩んでいても周りがきっと固めてくれますよ(笑)
武田:西洋の感覚でいうと、神様って全知全能で完璧に思われるかも知れません。ですが、神話の世界には神様の不完全な物語が散りばめられています。そんな神話がルーツになっている私たちが、完璧である必要はないんだ、と安心できますよ。
――現代社会において、神話を知ることのメリットがあれば教えて下さい。
太田垣:神話を知ることで、生きやすくなります。私は元々海外で客室乗務員として働いていたことがあります。先輩から「もっと自分を主張しなさい」と注意をされたときは随分悩みました。考えた結果、「主張よりも謙虚さを大事にしてきたんだ」と思い至り自己否定をやめました。神話を知ることで日本人としての帰属性が高まって、生きるべき方向性の理解が深まりやすくなったからだと思います。
また、神話を学ぶと自ずと神社に来ることが増えると思いますが、神社にはほぼ必ず鏡があります。自分を見つめ直すことで、おのずと幸運へと近づくでしょう。
武田:よく、自分が何者か知るために自分探しをする人がいます。それはすなわちルーツを探ることです。神話を知ることで本質に気づくことができ、何を大切にすべきか、在り方を知ることができるようになり、幸運につながるでしょう。
私は2012年頃から「神話カフェ」という古事記や日本神話を気軽に学べる場を開催しています。そこの参加者からも「ルーツを深く知ることで、より神社に行く意味や理由を噛みしめるようになる」という声が多くあります。
総じて、みなさんハッピーな気持ちになっていますよ。神域は、自然が多くパワーを感じられることも多いですしね。
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神話は、日本人が長い歴史の中で言語化してきた壮大なストーリー、我々のルーツなのだと感じた。ルーツを見つけ重んじること。それこそ、自分らしさにつながるラッキーになれる道の1つなのかもしれない。