セクシー女優、作家の紗倉まな(31)が5日、都内で小説最新作「うつせみ」(講談社)の刊行記念会見を実施。「美醜にまつわるものはずっと書きたいテーマだった」と語った。
野間文芸新人賞候補となった「春、死なん」(2020年)に続く今作では、美容整形を繰り返す79歳の祖母とグラビアアイドルの主人公を中心に、ゴールの見えない「美しさ」に翻弄される女性たちを描いた。
紗倉は「美醜にまつわるものはずっと書きたいテーマでした。4、5年前に一度書いたものがあったけれど、うまく完成できなくて、何度も書き直して、ちょっと寝かせてみたいな経緯があった。ようやく復活して書くことができた」と語った。「周りの同業者、10代の若い子がカジュアルに整形に向き合う時代性も感じていた。整形を繰り返すおばあちゃん、主人公の同業者のみぞれちゃん、整形というテーマもあるんですけど、その周りにいる家族が彼女たちとどう向き合うか、という家族小説の部分もあるような気がします」と語った。
整形を繰り返すおばあちゃんは、紗倉の祖母がモデルと告白。「私の祖母も整形を繰り返していて、もう80を越えているんですけど、小説の冒頭にある行方不明になって整形をしていたのは本当にあったシチュエーション。はたから見ていても不思議で、もう美醜で戦うフィールドからは抜け出した世代だと思っていたんですけど、ずっと美しくありたい気持ちが強い。本当に2週間ぐらい(手術で)帰ってこないことがあった。親族が何か事件に…と思った段階で戻って来た」と明かした。
整形に対しては「リスクも大きいけれど、なりたい自分に向けて顔を変え続けるのを、服装を変えるようにカジュアルに捉えている周りを見て、私の考えも変わってきました」と肯定的に捉える。主人公は美醜に無頓着な性格に描かれるが「私がなりたかった自分です。私はすごく気にするタイプで、例えば水着を着るイベントの前に、お弁当を食べない方がいいと思うのではなくて、気にせずに食べてスタミナをつけてお腹がぽっこりしてもいい、というタイプになりたかった」と明かした。
主人公に向けられる男性の悪意については「応援してくれるファンのおかげで自分が存在しています。けれども善意と悪意両方を感じることがあって、時には悪意に苦しむこともある。その葛藤は(主人公の)グラビアアイドルという仕事にも通じる部分があると思った」と説明。今作で描かれた美醜にまつわる付属的なテーマ「見られることの痛み」を「自意識過剰な部分があって、鏡に映ってる自分通りにいかないと思うことが多い。自分だけが自分を見ることはできないので、その苦しみは、この仕事をしていなくてもあると思う」と語った。
家族は「客観視してくれる存在」といい、「こんなことしない方がいいよとか、軌道修正させようとしたり、正常とは、通常とはという意識を強く押しつけてくる存在でもあるけれど、やっぱり切り離せないし、温かいものでも冷たいものでもあるよね、という家族をいつも描きたいと思っています」と語った紗倉。なお、モデルに用いた祖母からは、新作を出す度に感想を伝えられてきたが、今回はまだないという。「近所からも破天荒なばあちゃんと認知されていて、絶対(この作品を)知っていると思うんですけど、なかなか連絡が来ず、私からも聞きづらい。いずれ向き合うことになると思う」と語って、報道陣を笑わせた。
小説を書く理由を「本音を言うと炎上してしまうし、本音を書けばきっとシラケた目で見られてしまう。小説の世界だと、いろんな思いを書くことができて、自分の中で煮え切らない思い、発散できない思い、考えているけど書けないことを、小説は叶えてくれるので、頼って書き続けています」と語った。「春、死なん」では「エロ雑誌を買って孫にバレルおじいちゃん」が登場しただけに、今作を踏まえて「今後も強じんじいちゃん、ばあちゃんシリーズを書いていきたい」といたずらっぽい笑顔を見せた。そして「毎回別のテーマのもの、家族小説を書きたいと思いつつ、いつか、こんな作品も書けるんですね、と言われるような斬新な作品を書くのも夢です」と語っていた。
美醜に向き合う姿を描いた今作。「SNSでは毎日整形に関する話題が流れてきて、整形がカジュアルな時代に生きる女の子の息苦しさ、ずっと人と比較され続けることの苦しさみたいなものを描いた作品。いろんな人に読んでほしい」とアピールした。現在の美醜への向き合い方を問われると「基準を一概に言い難い部分がある中で、結構皆さんの目指す美が統一化されてきて、憧れる顔、なりたい姿が決まってきているような気がします。私は自分の生まれ持ったものの中から、輝ける最大限の自分に近づける手段を見つけられたらいいなと常々感じています。小説でも取り上げているので、そこを含めて読んでいただけたら嬉しい」と話していた。
◆紗倉まな 1993年生まれ、千葉県出身。工業高等専門学校在学中の2012年にAVデビュー。近年は報道番組のコメンテーターなど活動の幅を広げ、作家としても活躍。小説に「最低。」「凹凸」「春、死なん」「ごっこ」、エッセイ集に「高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職」「働くおっぱい」などがある。