公開されながらも諸事情によって劇場での再上映やテレビ放映、ソフト化、ネット配信などがNG状態となっている〝封印映画〟がある。その1本である「ガキ帝国 悪たれ戦争」(井筒和幸監督)が公開されたのは、1981年の9月12日だった。劇中、一部の描写に起因するとされる〝ある事情〟によって、わずか2週間で打ち切られ、現在まで「幻の映画」になっている。当時の公開日を前に、主要キャストの1人だった俳優の清水昭博(66)がよろず~ニュースの取材に対し、再上映を望む思いを語った。
「ガキ帝国 悪たれ戦争」(東映)は、同年7月に公開された井筒監督の出世作「ガキ帝国」(ATG)と同タイトルが付けられたが、舞台や時代設定が異なる別のストーリー。前作は大阪万博の3年前(67年)における大阪市内の繁華街(キタとミナミ)での不良少年グループの抗争を描いたが、同作は公開時の80年代初頭、大阪府内のベッドタウンが舞台となる。前作で島田紳助・竜介と主役トリオを組み、その演技力で注目された趙方豪が「豪田遊」の別名で主演した。清水は少年院を出所後、かつてのケンカ仲間(豪田)と再会し、物語に絡んでいく。
封印された理由は劇中に登場するハンバーガー店での描写だったという。ロケの撮影に使われた実在するハンバーガー・チェーン店舗で地元の少年たち(豪田と北野誠)がアルバイトをしているという設定だったが、映画公開後、その場面での登場人物の言動に関して同店の運営会社からクレームがあり、結果として上映が打ち切られたとされている。趙は97年に41歳の若さで死去。追悼イベントで出演作の1本として一夜限りで上映されたという情報もあるが、一般に向けた再公開は難しい状況となっている。
こうした一連の動きは各媒体で報じられたほか、日本シナリオ作家協会が2017年にイベントでの再上映を企画し、当事者と交渉したものの実現に至らなかった経緯を詳細に報告している。その際、流布されていた映画封印の理由にまつわる〝都市伝説〟が事実ではないとして否定もされた。同協会の活動は19年に断念されたが、再上映を望む映画ファンの声は依然として続いている。
清水は次のように証言した。
「この作品の脚本を書いた西岡琢也さんは日本シナリオ作家協会の理事長だしね。俺も上映の決起集会に行って、署名運動もして、スピーチもしたんですよ。問題になったハンバーガー店というのは、撮影を始めたばかりの頃で、安く借りられたロケ場所だったと聞いています。そのシーンにチョウ・バンホウ(趙方豪)は出ていたけど、俺は出てないんですよ。でも、もちろん試写で作品は観ています。『こんな、はやんねえ店』ってセリフを言ったくらいで、そんな大ごとになるような話じゃないんですよ。安倍昭恵さんみたいな人が『やりなさいよ』と言ってくれたら、上映できる話だと俺は思うんですけどね」
「青春ド真中!」「ゆうひが丘の総理大臣」といった70年代の青春ドラマで生徒役として人気を博し、今年で芸能活動50周年を迎えた清水。「ガキ帝国 悪たれ戦争」にまつわる思い出について、「井筒監督が打ち上げで暴れた現場に俺も一緒にいましたね。その時の助監督は阪本順治や平山秀幸だったり、今ではみんな〝巨匠〟(監督)になってますよ。でも、その後、俺、1回も使ってくれてない。彼らをいじめたから(笑)。助監督に生意気なことを言う役者だったから、俺のこと嫌いだったんでしょうね」と懐かしんだ。
当時20代前半だった若手俳優も今年で67歳のベテラン。43年の月日が流れた。清水は「とにかく、この映画は面白いから。(イベントなどで)上映だけでもやれたらいいなと思います。今やったら、みんな観ると思いますよ」と強調した。