大阪府吹田市の関西大千里山キャンパス近くで、1984年(昭和59)から営業してきた定食屋「大学亭」が4月いっぱいで営業を終えた。大ボリュームと、苦学生の財布にも優しすぎる価格で関西大の学生や職員に親しまれてきたが、不慮の事故に遭い40年の歴史に幕を閉じた。閉店の知らせに、号泣する大学職員もいた突然の閉店劇。長らく学生街を見守ってきた店主の西之原猛博(たけひろ)さん(73)に話を聞いた。
キャンパス近くにあった店には、店主からの「閉店のお知らせ」と題された紙が貼られていた。「病気と怪我の治療の為4月30日を持ちまして大学亭を閉店することになり40年と言う長い年月に渡り皆さまのご支援に心より感謝申し上げます」。
サービスランチ650円。てんこ盛りの定食は、どんなに高くても価格は800円いかなかった。大盛りのカレーライスはずっと400円。2023年にようやく50円値上げしたばかり。関大生の胃袋を満たしてきた店は、昨今の原材料高ではない事情で閉店に追い込まれた。
妻の澄代さん(74)と2人で、40年間店を切り盛りしてきた西之原さん。2023年12月のある出来事が、クローズを決意させた。営業を終え澄代さんが帰宅中、大学前の通りで酔っ払った2人にぶつかられ転倒。直後はそのまま自宅に帰ったが、翌日激しい痛みを訴え病院へ。股関節を骨折しており、手術に追い込まれた。
今では杖をついて、なんとか歩けるようになったが、西之原さんは手術をした妻の介護に追われた。店を休み、リハビリに寄り添う。そして苦渋の決断をした。「2人で無理してやってたから。嫁さんがあんな状態だったら、もうできませんもんね。1人でどうしようもできない」と振り返った。
最盛期、一日350人前が出た。厨房は西之原さんひとり。タレに至るまで、すべて手作り。米は1日15升(約22・5キロ)炊いていたという。「昔は元気やったからね。どうにか持った」と、鍛え抜かれた体を見せる。今でも筋トレは欠かさない73歳。突然のリタイアはさぞかし無念だろう。
儲け度外視か!?と思わざるをえないボリューム。実際、そうだった。「歳いったら、食べていけたらと思った。安いところは、みんな儲けなしでやっているような感じありますよね。やっぱり、学生やからね。(体育会)クラブの人らやったら、嫌でも多めに盛ったらなあかんしね。学生にはそうなりますよね。金ないしね。多めにちょっとアレしたろかなと思って…」。口について出てきた〝アレ〟には、いろんな思いがある。
大学関係者に衝撃だった大学亭の閉店。常連だった関西大の男性職員に、事情を話すと号泣されたという。「学生時代から来てるから、と泣いていた。辞めたくはないけど…」と胸をふさぐ。学生からは惜しむ声とともに「からあげのレシピを教えて」「ドレッシングを売って」などの声が寄せられた。実際に、関西大のクラブにはレシピはを教えたという。二度と食べられない大学亭の味はいつの日か、誰かの手によって受け継がれるのか。
澄代さんがけがをした時から、店を開けることができないまま閉店。多くの客に、さよならを言うことができなかった。「こんなに急にやめてもうて悪いけど…。やめたくはないけど。お世話になりましたとしか…つらいですよね。やめるのは」と、西之原さんは声を絞り出した。