移民問題に取り組む仏映画「ウィ、シェフ!」世界へ向けての日本映画の問題点も浮き彫りに 伊藤さとり語る

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「ウィ、シェフ!」のワンシーン© Odyssee Pictures - Apollo Films Distribution - France 3 Cinéma -Pictanovo - Elemiah- Charlie Films 2022
「ウィ、シェフ!」のワンシーン© Odyssee Pictures - Apollo Films Distribution - France 3 Cinéma -Pictanovo - Elemiah- Charlie Films 2022

 今、海外では「移民」をテーマにした映画が積極的に製作されています。近年では第94回アカデミー賞国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞にノミネートされ話題となった『FLEE フリー』がありますが、これはアフガニスタンから脱出を図った難民でありゲイの少年の安全を守る為に、アニメーションという手法を取りました。

 またトライベッカ映画祭やシドニー映画祭で観客賞を受賞したドキュメンタリー映画『チーム・ジンバブエのソムリエたち』は、ジンバブエから南アフリカに逃れた難民で黒人の4人が努力の結果、ソムリエになり、チームを結成して「ワインテイスティング選手権」の世界大会に出場した実話です。

 実は日本でも「移民」を描いた作品が昨年公開され、在日クルド人の在留資格について描かれた『マイスモールランド』が新藤兼人賞銀賞ほか映画賞を席巻し、やっと目を向けられ始めたばかり。これは世界の映画人達が、各国に存在する反移民感情に一石を投じるべく、彼らが「居場所」を得る難しさを世界に知ってもらうおうと考えた共通テーマによるものです。

 そんな中、移民大国であるフランスで、「移民」の若者達の居場所作りをテーマにした映画『ウィ、シェフ!』が製作され、日本では5月5日に公開されます。物語の主人公はベテラン料理人のカティ。彼女はテレビに出演する人気シェフが経営するレストランに勤めていましたが、料理に対する意見の相違で店を辞めることに。けれど再就職先は難航し、行き着いたのは移民支援施設の住み込み料理人という仕事でした。

 この施設には様々な理由で世界中から集まった移民の少年たちが寮生活を送っていて、施設長は18歳までに職業訓練学校に就学できないと強制送還されてしまう制度から子ども達を救う為に、日々、奔走していたのでした。最初は人手不足で不満ばかりのカティでしたが、少年たちを調理アシスタントとして教育する発想から、料理を通して彼らと交流を深めていくのです。

 実話から生まれた本作。モデルとなるのは、職業高校の教師でシェフのカトリーヌ・グロージャン。彼女は未成年の移民少年たちに職業適格証を取得させるべく社会活動を行なっており、移民達が手に職を持つことで安定した暮らしを得られるよう尽力しているとのこと。なかにはダロワイヨに就職した教え子もいるほど成果を生んでいます。

 しかも映画に登場する子ども達はパリの移民施設で暮らす当事者。今までの人生を語ってもらった300人以上のオーディションビデオからワークショップを経て、選ばれた40人が施設で暮らすメンバーに抜擢、その他の若者達もエキストラとして劇中に登場しています。それにより、移民の彼らが映画を通して「調理師」や「俳優」という職業にも興味を持つきっかけを与えていました。

 本作『ウィ、シェフ!』は社会派というより、ハートフルコメディというジャンル。思えばフランス映画は、社会問題をコミカルに描くことで大衆に届ける手法を取り、多くのヒット作を生み出しています。特に『最強のふたり』や『シャイニー・シュリンプス』、『最高の花婿』は代表的ですが、第94回アカデミー賞作品賞他を受賞した『コーダ あいのうた』は、フランス映画『エール!』のリメイク。一方、日本はコメディ映画を製作するのが苦手と言う監督も多く、社会派映画はあくまでもシリアスに、コメディ映画は現実を忘れられるほど笑えるものに、という作品作りが主流の国。

 そう考えると、世界に通用する映画とは「社会問題を見つめ大衆の心を掴む映画作り」が基本だということに、海外の映画を通して日本の製作陣もそろそろ気づかなければいけない気がします。世界に置いていかれない為にも。

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