特撮、アニメ、映画の評論家が神保町に新たなシェア型書店 フィギュアにサブカル、個性的すぎる本棚に

山本 鋼平 山本 鋼平
ネオ書房@ワンダー店をプロデュースした切通理作さん=東京・神保町
ネオ書房@ワンダー店をプロデュースした切通理作さん=東京・神保町

 アニメ、特撮、映画に関する著書を多数発表してきた評論家・切通理作さんが今年4月、東京・神保町に「ネオ書房@ワンダー店」をオープンした。19年8月に阿佐ケ谷のネオ書房を前店主から引き継ぎ、2店舗目となる今回、切通さんが選んだ方法はシェア型書店の形式を採り入れることだった。

 数十センチ四方の本棚ごとにオーナーが存在し、自由に書籍を並べるシェア型書店。最近、各地で人気が広がりつつある。個性的な書店がひしめく神保町でも、仏文学者の鹿島茂さんが立ち上げた書評サイトが運営する「PASSAGE」、空間プランナーの水野久美さんと映画評論家の樋口尚文さんが共同店主を務める「猫の本棚」が有名だが、切通さんは「そうしたお店とは角度を変えようと思うまでもなく、蓋を開けてみたら全く違った本棚になって驚きました」と語った。

 オリジナルソフビ人形を制作するヒカリトイズ社、ウルトラマン関連では実相寺昭雄研究会や、80年代カルチャーのイベントを展開するマクラウド社、本宮映画劇場、漫画家からは武富健治や田川滋に近藤ゆたか、点滅社、作家の大泉りか、神田つばき、出版社からも東京キララ社、論創社、点滅社、生物雑誌の「生物の科学 遺伝」などなど。特撮、アニメなどのサブカルから、映画、硬派な社会時評、性愛をモチーフとしたもの、ZINE(自主制作の冊子、書籍)、フィギュアや人形、映像ソフトまで幅広い本棚が形成された。

 切通さんが名前を引き継いだ阿佐ヶ谷ネオ書房は半世紀前より営業を続けていた。古書店「@ワンダー」のオーナーが旧阿佐ヶ谷店で働いていた縁があり、@ワンダー2階の神保町ブックカフェ二十世紀をプロデュースする提案を受けた。

 切通さんが仕入れた古書を並べる、阿佐ヶ谷店のような形だけにはせず、シェア型書店にしたのは理由がある。「自分で本を並べると、自分の脳内から出ないような気がして、それをシャッフルするのにも限界を感じる。棚の中は不可侵の場所にして、好き勝手にしてもらった方が新しい魅力は生まれると思いました」。他のシェア型書店と類似しないかと心配していたが、開店から半月が過ぎ、それは杞憂に終わった。

 理由の一つとして考えられるのは、本棚のオーナーに、切通さんと仕事で接点のあった者が多い点だろう。さまざまな仕事内容で、多彩な人物と関わってきたことの結果でもあり「阿佐ケ谷と書棚の感じが近いような気もしますね」と、決して悪い気持ちではない。その一方、「テレビの『土曜ワイド劇場』のように、最初は『野菊の墓』みたいなものまであってバラエティに富んでいたのに、いつの間にかサスペンス一色になったような感じは『ちょっとな』って」とも話し、特定のジャンル一色にならないよう、これまで接点がなかったオーナーによる手芸、グルメ、雑貨などの棚にも期待の視線を送っている。「カフェとも連動して、生活的な棚を作っている人にとっての『場』にもなるようにしていきたいですね」と話した。

 店内には調理場があり、軽食をとれるカフェ、大型モニター等の設備があり、50席を準備できるレンタルスペースも兼ねる。阿佐ケ谷では最大15席ほどの規模でイベントを開催してきたが、新たな試みにも意欲的。21日には怪獣絵師の開田祐治氏とアニメ評論家の氷川竜介氏のトークショーを主催した。アート作品の展示、会合、上映会など外部からの利用も歓迎する。

 入り口近くの展示用テーブルには、主催イベントにまつわる委託販売が行われていた。23日までは開田祐治氏と氷川竜介氏の著作物を並べる。「阿佐ケ谷で150冊売れた」という氷川さんの『宇宙戦艦ヤマト 1974全話解説』は神保町でも売れ行き好調。オーナー不在の棚には切通さん所有の書籍が並べられており「阿佐ケ谷では売れないマニアックなものが神保町なら買われる。阿佐ケ谷の方は、町の本屋さんらしく、小説や一般向けのノンフィクションが以前より置けるようになりました」と、想定外の効果もあった。

 賃料は大きな書棚(縦33センチ×横76センチ×奥行16センチ)が月額4400円、小さな書棚(縦23~35センチ×横28センチ×奥行24センチ)が同3300円。新刊、古本、ZINE、CD、フィギュアなど販売物は基本的に自由。切通さんは「お客さんには棚を見ているだけで楽しんでほしい。棚主さんにも後悔させないように、魅力的なお店にしたいです」と話していた

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