SF映画『エブエブ』が映画賞を席巻するワケ〜アジアの俳優がハリウッドで才能発揮、突飛な世界観で魅了

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のワンシーン=© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のワンシーン=© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

 全世界興収1億ドルという大ヒットを記録した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。第80回ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞(ミシェル・ヨー)&最優秀助演男優賞受賞(キー・ホイ・クァン)、第95回アカデミー賞10部門11ノミネートほか世界各国の映画賞を席巻するほど話題の“エブエブ”。このSF映画が何故そこまで映画人を魅了するのか?

 それはコミカルさとアクションというエンターテイメント性の高さ以外に、監督のダニエル・シャイナート&ダニエル・クワンのオリジナル脚本による独創的で突飛な世界観からだろう。

 普通の主婦が突如、現実とは違う世界からやってきた夫にいざなわれ、世界を救うヒーローとなって様々な世界へワープしてキレッキレのアクションを繰り広げる本作の一番の魅力は、香港映画仕込みのアクション女優で今やハリウッドでも引っ張りだこのミシェル・ヨーによるカンフーアクションだ。

 更にワイヤーを駆使した華麗なアクションシーンと共に、マルチバースを利用し主人公のキャラクターがコロコロと変化し、大女優になったり、カンフーマスターになったり、指がウィンナーになったり、『ハロウィン』のジェイミー・リー・カーティス演じる女性と恋人同志になったり、石になったりと、一つの映画でコメディからアクション、ロマンス、ヒューマンドラマが楽しめるドラマ性の高い作品。しかも移民が主人公であり、彼女はADHD(発達障害)であり、クィア映画であり、という社会へ伝えたいマイノリティ目線のメッセージが見事に練り込まれている。

 そこに80年代に子役として『インディ・ジョーンズ/魔球の伝説』』『グーニーズ』などで活躍したキー・ホイ・クァンが復帰し、夫役でミシェルとコンビを組むんだからたまらない。しかも最近までは現場に武術指導として入っていただけある魅せるアクションで、頼りない夫がジャッキーさながらの小道具を使ったアクションを披露し、どんどんカッコよく見えてくるのだから。

 アジアの俳優がハリウッド映画で才能を発揮し、母と娘の確執という普遍的なテーマを茶目っ気と愛しさたっぷりに描いた本作は、間違いなくアカデミー賞主演女優賞を手にする秀作。いや、作品賞も助演男優賞も取る予感さえする。まさに一度、味わうとクセになる面白さだから世界中の観客を虜にしたのだろう。

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